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そして君はサヨナラと言った
霧の答え




「クローム。」

「はい、骸様」



仁王が骸から離れて言ってしまったのち会場へ戻り、クロームの前に立つとついてくるように指示をした。

近くにはランボが立っていて、その他はこの場に居ない。
人気のない場所へ移動すると、壁に身体を任せてクロームの方を向く。
好都合とでもいうかのように、骸はクロームにほほ笑んだ。


「アルコバレーノに言おうと思います。」


たった一言言っただけ。それは何を示しているのか、クロームは予想ができて、眉尻を下げる。
微かに開かれた唇は反論の為のものなのか、了承の為のものなのか、本人すら判断できずにいて。

答えに迷いが生じるのも仕方のないことだと、骸は目を閉じる。



「クローム、僕はもう耐えられません。ここからは、貴方の自由ですよ」

「わ、私は…」


骸様のものだから。
そう小さくつぶやく彼女はとても悲しそうな表情を浮かべていた。
彼に従う。そう言いたそうに両手を握りしめて俯いてしまっている。

骸もクロームの回答にそこまで驚かず小さな声で「そうですか」と言えばため息を零した。
予想通りの回答で、あまりにも従順すぎる骸のアナグラム。

だからこそ――…










「もう、ダンスが始まっている頃ですね…ついてきなさい。」


会場から音楽が聞こえてくる。
レジェンドもディアンテも居ないこの場で、何人かの女性が残念に思っているだろう。
骸は女性であるクロームを連れて会場に入れば、がっかりしたような顔を浮かべている。

そんなことすら気にせずに骸は会場内を見渡して、目的の人物の元へと足を向けた。
もみあげが特徴的な…アルコバレーノ、リボーン。



「今までどこに居たんだ、溝端が探していたぞ」

「僕には関係のないことですね。…話があります」

「ここじゃあ言えないことか?」

「ええ」



リボーンは組んでいる腕をほどき、寄りかかっていた背を伸ばしてテラスへと移動した。
会場の鮮やかな色合いを背後に骸が真剣な目つきでリボーンを見る。
彼の後ろには沈黙したままのクロームがついてきており、交互に2人を見やっていた。


「クロームも関係のあることか?」

「ええ。まあ、彼女の判断は自身で決めるように言っていますので」


くふふ、と笑いながらリボーンにそう告げると、すぐに顔は真剣なものへと変わった。
リボーンはポーカーフェイスを崩すことなく骸を睨むような目つきでじっと言葉をまっているだけ。

そして、ゆっくりと告げられた言葉。



「僕は、今この場をもってボンゴレから抜けさせていただきます。まあ、もともとマフィアになったつもりはないんですけどね。」

「本気か?」

「ええ。言ったはずです、僕は綱吉君が居たからこそ彼の下で動いた。契約も交わした。綱吉君の居ないボンゴレなど、興味もなければ、留まる理由すらない」

「まだツナに縋っているのか?いい加減にしろ、ツナはどう望んでも帰って来ねえんだ…ないもの強請りも卒業しやがれ」

「アルコバレーノ…あなたは知っているのでしょう…綱吉君が今、どうしているのか」

「知らねえな」

「シラを切りますか…良いでしょう。でも僕はボンゴレを抜けますよ、貴方がどう言おうとも」

「裏切るのか、ボンゴレを」

「言ったでしょう、マフィアの人間になったつもりはない、と。」



「骸は、それで満足なの?」




この場に居ない第3者の声が聞こえ、話を中断して声のする方を向いた。

そこには、悲しそうな顔で立つ溝端の姿があり、後ろには険しい顔をしている獄寺と山本が控えている。
ドアのふちに手を添えてゆっくりとした足取りで骸に近づくと手を伸ばした。


「私は綱吉君の代わりになれないし、みんなをまとめる力もないかもしれない。でも、綱吉君が居ない今…誰かがまとめなくちゃいけないのよ?あの事件の当事者である私たち…ううん。私にも非がある。だから、せめて綱吉君が大切にしていたこのボンゴレを支えていきたいの。そうすれば、綱吉君だって安心できるんじゃ」

「煩いですよ、僕はそんなものどうでもいいんです。」


ボンゴレなど関係ない。
憎しみの籠った目で溝端を睨み、右目を片手で覆った。


――骸、なんで右目隠そうとするんだよ、綺麗なのに。


「(綱吉君…っ)……クローム」

「はい、骸様」

「貴女はどうするんですか」



左目でクロームを見れば、ゆっくりと目を閉じてリボーンの元へ歩いて行くと、手を差し出した。

自然と伸びる手はクロームの握られた手の下まで伸ばしてじっとクロームを見る。
ゆっくりと開かれた白い手の中からは小さな、それでもずっしりと重いものがリボーンの掌へ転げ落ちた。
紛れもない、ボンゴレリング。



「それが、答えですか?」

「……はい」



リボーンの前から離れて骸の傍らに立つと今一度振りかえり、リボーン達を順番に見る。



「アルコバレーノ。それでは、僕たちはボンゴレを去ります」

「ごめんなさい、さようなら」



止める言葉も見つかることなく、ただ各々が彼らの名前を呼ぶだけ。
霧に包まれた2人はその霧に紛れて消えていった。






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