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そして君はサヨナラと言った
白い闇@




さっきから幸村から離れずに、移動中の席でも幸村の手を握っていた。
ボンゴレが出るとわかっているものの、なぜ恐怖しているのかわからないこの心にどうすることもできず、ただ会場へ着くまで手を離さない。


「綱吉。会場で、君に会わせたい人が居るんだ。」

「あ、会わせたい人?」

「うん。先方はすごく会いたかったみたいなんだ。今日という日を楽しみにしていたって」

「………」

「大丈夫ですよ。私たちがついていますから」

「う、うん」



会場では順番に綱吉とまわるらしく、それ以上にボンゴレに目をつけられないように気を配るらしい。
一見普通の屋敷にしか見えない場所で、門番の人にナンバーを言うと、駐車のゲート番号を言い渡される。
それにしたがって車を止めて、そこから会場まで歩いて行く。

決して表の世界のようなコンクリートばかりの駐車場ではなく、すぐそこに赤いカーペットが敷かれており、その上を歩いて行くとすぐ会場に辿りつける。
パーティの時間の5分前。

ちょうどいいかもしれない。

幸村は柳に目を配らせると一気に散っていった。
幸村の隣には人の多さに足が震えてしまっている綱吉だけ。

レジェンドとディアンテは顔が良いだけではなく、評判もいいと噂になっているだけある。
会場に入っただけでさまざまな人からの注目を浴びている。

それはもちろん女性からのものが多く、綱吉に注がれている視線は痛々しい。
手を握る力がましていることに幸村はもちろん気付いていて。


「大丈夫、落ち着いて」

「で、でも…っ」


「chao. レジェンドの幸村」



俯いている綱吉に少し身を屈めて優しく声をかけているその時、上から聞こえてきた声にため息をこぼしたくなった。
幸村は営業スマイルを浮かべて彼にこう言った。


「chao. 久しぶりだね、リボーン」

「遅い。何時まで待たせりゃ気が済む」

「時間通りに来たじゃないか。そんなに会いたかった?」


チラリ、綱吉に目を向けた。
まさか。そんな表情で幸村の隣にいる女に視線を移した。

最後に見たのは高校の途中まで。しかも傷だらけの肌に青白い姿だった。
今、幸村の隣に立っている、俯いている女性から男を思わせる要素など一つもなく、ましてや自分が会いたいと思っていた綱吉とはかけ離れていた。


「まさか……っ」



《ご来場の皆さま、お時間になりましたので、これからパーティを始めさせていただきます》


アナウンスが流れ、リボーン達の話は強制的に終了させられてしまった。
身体を前に向けて静かに聞いている最中、視線だけは幸村の隣の女性を見ている。

さっきから顔すらあげないため、顔すらわからない。
本当に綱吉なのだろうか。そうリボーンも頭の隅でオープニングが終わるまで考えていた。


挨拶もすぐに終わり、立食パーティが始まってから会場は大いに盛り上がっている。
あちらこちらで笑い声が響き渡り、挨拶している声が聞こえたり。

綱吉は心の中で何度も「大丈夫」と暗示をかけながら幸村の手を握っていた。




「綱吉」


小さな声でそう呼ばれて顔をあげる。
思ったより幸村の顔が近くにあって、びっくりしたようだが首を傾げる。
視界の隅に映っている知らない人に一歩後退しながらもゆっくりと頭を下げた。


「聞いて。俺はこれからいろんなファミリーの人に挨拶しに行かなくちゃいけないんだ。そうだな…誰かと一緒にいてほしいんだけど、誰が良い?」

「え…どういう……」

「君を一人にするなんてできないからね。一番一緒にいたいと思う人で良いよ」

「………」

「(仕方ない…)じゃあ、仁王を呼ぶ。それでいいかい?」



綱吉がうなづいたのを見て笑みをこぼし、近くにいた赤也に仁王を呼んでくるように指示する。
そう時間も立たないうちに仁王が幸村の処まで来ると、用件を伝えた。

納得したように声をあげると、視線は綱吉に移動して手を差し出した。
綱吉は幸村を見てから、繋いでいた手を話して仁王の手を握る。


「リボーン。仁王から詳しいことは聞いてくれるかい?」

「ああ。」

「それじゃあ」



幸村は綱吉の頭をひと撫でしてから、人ごみの中に消えていった。
見えなくなるまで幸村の後ろ姿を見ていて、そして仁王に目を映すとテラスに移動しようといわれた。

もちろん、リボーンもその後に着いて行く。


テラスに出ると中のにぎやかな声も落ち着く。
誰もいないことを確認してから、仁王はリボーンの方へと身体を向けて口端をあげた。



「久しぶりじゃな、リボーン」

「相変わらずのようだな、仁王。…で、本当にこの女がツナなのか?」

「そうじゃよ。…綱吉、安心しんしゃい。悪い人じゃないぜよ、自己紹介、できるか?」


身を屈めてそう問うが、怖いらしく少し目を合わせると仁王の後ろに隠れてしまった。
そこも愛らしいのだが。

リボーンは何か言いたそうに仁王を睨んでいる。


「どういうことだ」


低い声で仁王に言えば、なお綱吉は仁王の後ろに隠れて震えてしまっている始末。
呆れた表情でリボーンを見、綱吉の頭を撫でながらリボーンい睨み返す。


「その殺気、仕舞ってくれんかのう。怯えてるじゃろ」

「なんでツナが俺に自己紹介しなきゃならないんだ!」

「そう吠えなさんな。怯えてる言うてるじゃろ」

「答えろ仁王」


「初めて会う人に挨拶するのは礼儀だろう、リボーン」

「!……柳か」


いつの間にかテラスのドアに寄りかかっている柳がそこに立っていた。
手にはシャンパンがあり、誰かとかわしてきたのであろうことが見て取れる。
舌打ちしながらもリボーンは口を閉ざして仁王の後ろに隠れている女の恰好をしている綱吉を見て、頭を回転させてどういうことなのか理解しようと必死に糸を探った。

そこまで馬鹿ではないとわかっているからか、黙ってシャンパンを口にする柳。
仁王は一息入れて柳に視線を移す。


「答えろ、仁王。お前は、こいつがお前らの家族になったことを言いたいのか?」

「まあ、それもそうじゃな」


首を傾げながらさみしげに笑う仁王に、リボーンは小さな声で「嘘だ…」とつぶやいた。
暫くたって結論が出たのか、仁王の後ろに隠れている綱吉の元へ足を運ぶと視線を合わせて小さく笑い。


「…さっきは驚かせてすまない、アルコバレーノのリボーンだ、よろしくな」

「さ、わだ…綱吉、です。よろしくお願いします、リボーンさん」


表情はそこまで変化はないのに、今にも泣き出しそうな声で紡ぐ言葉…それは、残酷なものだった。

『リボーン!』そう呼んでいた彼がいない。



「ああ、よろしくな」


泣きたい衝動をぐっとこらえ、綱吉に笑みを向けると被っている帽子を深くかぶり、表情を隠した。





「ここにいたんですね、リボーンさん!」


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