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そして君はサヨナラと言った
暖かなぬくもり





財前は綱吉に拒絶されたことが相当いたかったらしい。
即席のベッドに腰を下ろしたまま床を見ながらぼんやりと先程のことを思い浮かべていた。

あんなに仲が良かったのに、しばらく見ないうちに弱々しくなっていて。しかもよりによって財前から隠れるように柳にひっついた。


「(ホンマ腹立つ…)」


なぜ彼が苦しんでいる時に自分は助けに行かなかった?
壊れてしまった彼にまた近づけるようになるだろうか。そんな事ばかりが脳を占める。
大きなため息をついたとき、近づいてくる足音に視線だけソチラに向けた。

また謙也だろうか、なんて思いながらもじっと見ていた。
案の定、謙也の姿を見るとベッドに倒れこんで背を向ける。もう今は誰とも相手したくないのだ。


「光?あんな、綱吉連れてきたんやけど」

「!」


綱吉という言葉に身体を起こす。
謙也から離れているが、確かに彼の後方には綱吉が居る。

まだ怖いのか?
なんて思いながらも顔は緩んでしまっている。
謙也は「じゃあ、俺はあっちに戻ってるな」というと、さっさと行ってしまい、距離はあるが2人だけになった。


「ツナ。なんもせえへんから、こっち…な?」

「………う、うん」



レジェンドなら躊躇いなく近づいてくるんだろうか、なんて隅で思うと腹立たしい。
そんな考えはかき消して手を差し伸べる。


「言うたやろ?俺はお前を絶対に傷つけへんて。」


おずおずと足を半歩、また半歩と近づいてくる。
これが謙也だったら蹴りをかましているところだ。

震えている手でそっと財前の手の上に乗せるとすぐに離れた。
まだ怖いんだろうか。

正直、財前…いや、誰も綱吉の身に何が起こったのか知らないだろう。もちろん、本人も。
ただ人に恐怖を覚えているだけ。記憶喪失になっても身体が覚えている様子。
完全に忘れてしまえば、綱吉の為になっていたかもしれない。


「(完全に記憶を失えばツナの負担は軽減する。せやけど、自分が誰かわからない恐怖にツナは耐えられるんやろか。)」

「あ、あの…財前、くん?」

「!…ああ、そないなところに立ってないでこっち座り?」


ぽんぽん、自分の隣に手を置いて誘えば、おずおずと腰をおろした。
財前と綱吉の間には隙間。それが、今の彼との距離と言えよう。


「で、どないしたん?」

「あ…えっと。特に用はないんですけど、気になって……め、迷惑ですよね…、ごめんなさい」


何故か敬語を使い、他人行儀な綱吉。

立ち上がろうとする綱吉の手を咄嗟に掴み、引き留める。
迷惑じゃない、と口に出さないものの、優しく笑ってやる。

少し怯えるような素振りが見えた。
これもだめなのか。

財前の頭の中でチェックしておく。


「わざわざ、来てくれたんやろ?ありがとな」

「……」

「ツナ。タメなんやし、敬語使わんでええよ。」

「あ、……うん、わかった…財前君」

「それもや。ツナに財前君なんてなんか変な感じやし。前みたいに……」

「…まえ?」


そうだ。
記憶がないんだったか。そう考えさせられ、内心舌打ちをしながらも表では苦笑交じりに首を振って。


「何でもない。気軽に“光”って呼んでええから(今までそうやったし)」

「じゃ、じゃあ…光って呼ばせてもらうね」

「おん。…せや、イタリアまでの半日はこの中やし、くつろいだ方がええ」

「あ、ありがとう。皆にも、言われた…」

「そか。……なあ、ツナ。俺と一緒に居ってくれるのは嬉しい。ツナは…俺と居っても疲れへん?」


少しキョトン、とした顔をしてしまっていたが、首を横に振って。

なんだか落ち着く。
そう言うとゆっくりと瞼をおろした。


うつらうつらとしてて、瞼が重そうだ。
眠いのだろうか。なんだかんだ、この飛行機に乗って3時間がたとうとしている。
綱吉は財前に寄りかかることなくベッドに横たわり、うずくまるような体制で寝始めてしまった。

頭をひと撫でしてから、置いておいたパソコンを手を伸ばして取り、綱吉を起こさないように開いた。


「(ボンゴレの中でも、ツナが生きていて、しかもここにいることを知っているのはボンゴレ暗殺部隊・ヴァリアー、9代目、アルコバレーノのリボーンだけ)」


躍起になって探しているという、あの六道骸と雲雀恭弥。そして……ミルフィオーレの白蘭。
絶対に見つかることのない綱吉に苛立ちをみせているとか。

財前はデータをまとめて整理する。
今回のパーティだってそうだ。綱吉が楽しんでもらえればいい。
ただそれだけが願いだ。


「………」

「光ー」


甘ったるい声に苛立ちを隠せずに近くにあったペットボトルを謙也に投げた。
驚きの声を漏らすものの、しっかりとそれをキャッチして文句をたれる。

綱吉が寝ていることを知らない謙也にため息を零して睨むと首を傾げた。
ひょこりと覗けば、財前の隣で気持ちよさそうに眠っている綱吉に納得の声をあげ、ニヤリと笑みを浮かべる。

財前を見れば、ぷい、と顔を背けてしまっている。まだ自分と距離があるのに苛立ちを増しているに違いない。
苦笑交じりでそれを見てから、綱吉の頭を撫でた。


「白石が呼んでるんやけど…来てくれへん?」

「……しゃーない」


ため息をひとつ零してから綱吉をベッドにしっかり寝かせて、謙也の後について行った。

行ってみれば、全員が難しい顔をしている。何か問題でもあったのかと思いきや、全員の視線は数枚の写真に向けられていた。覗いてみれば、いろんな衣装を着ている綱吉。
もちろん、綱吉本人ではない。仁王と柳生が変装して着たものだ。
しかもどれが柳生でどれが仁王なのかわかりやすい。

仁王はにこやかにそれを着こなしているし、ドレスの裾を持ち上げて楽しんでいるようだが、柳生はおとなしく写真に収められている。


「なあ財前、お前ならどれが一番似合うと思う?」

「……は?」

「綱吉が着るやつだよ。普通だとつまらな…ゴホン、ボンゴレ側にばれちゃうでしょ?」

「(今、つまらないってゆーたな…)……無難に、これじゃないっすか?見る限り控え目な性格なんやし、こういうような派手なんは向かないと思います。」

「なるほど。カワイイ系か…」

「ほら!言ったじゃないっすかー!!こっちの方が良いって!!」


赤也が写真を手にとって柳に見せると「はいはい」と流されてしまった。
財前は呆れながらも少し離れた場所に腰をおろして眺めているだけ。

イタリアに着くまであと8時間

綱吉が起きるまであと2時間

綱吉の衣装が決定するまであと3時間……






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