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そして君はサヨナラと言った
怯えた君に差し出す掌 A




財前は目を丸くして綱吉を見た。
事情は聞いている。でも、記憶がないだなんて知らなかったのだ。混乱してぶつけたくなる感情を必死にとどめて、彼の名前を出来るだけ優しく呼んだ。

ひっそりと顔を覗かせてくる綱吉は怯えており、財前の心も痛むが今できる精一杯を彼に送る。


「財前光や。よろしゅう、ツナ」

「っ、」


手を差し伸べるが、顔を隠されてしまった。
柳と顔を合わせてもう一度綱吉の名前を呼ぶ。


「聞いて、ツナ」

「………」

「俺は、お前を絶対に傷つけへん。護る……信じてや」



親友であった彼に当たり前のことをサラリと言う。
日ごろの彼からは想定もできないような言葉が綱吉にかけられ、謙也は財前がおかしくなったのではないかと思うほどだ。
言いたいことをすべて言い切った財前は、真剣な目つきで綱吉に再度手を差し伸べる。
それをじぃっと見る綱吉は躊躇いがちに口を開いて。


「あの、」

「……なん?」

「オレ、怖くて……中々、その手を、取れなくて……っ、でも、すごく財前君、の気持ちが伝わってきて………」

「おん」

「それに…なんでか、わからないけど…こわい。と、同時に…この人は大丈夫。っていうか……」

「……」

「財前君の言いたいことも信じたくて……それ以上に、なんだか、懐かしくて……」




ポロリ、涙を流して袖で拭って、目を真っ赤にさせながらも震える手で財前のての上に自分の手を重ねる。


「あ、ありがとう」

「おん」



財前はその手を握り返してから、ゆっくりと離した。
この後、レジェンドと羽田まで行き、レジェンドが所有している飛行機に乗り換えなければならない。
全員ヘリに乗り込んで再び出発した。


そう長い時間乗らずに羽田へ着くと飛行機に直ぐ様乗って日本から発つ。
一般人と干渉できないように気を付けて。



飛行機ではくつろいでいるレジェンドのメンバーに対し、少し緊張の色が見える綱吉は柳生の隣に腰をおろして裾を掴んでいた。
キョロキョロとしている綱吉に、さして気にすることなく本を読んでいる柳生。時折様子をうかがう程度だ。

そんな彼をくつろがせようと、柳は綱吉の前に煎茶を出してやる。目が合って、首を傾げるのを見て頭をなでた。



「そんなに気を張るな。向こうで倒れてしまう」

「う、うん…」

「綱吉君、私たちもいますから安心していいんですよ?」

「あ、ありがとう柳生君」


綱吉はお礼を言うと辺りを見回した。
先程の財前のことが気になってしまっているようだが、見当たらない。
しょんぼりと、無意識に肩を落としてしまう。

幸村と話をしている白石を見やって、2人で抱きあっている2人を見てすぐに目を逸らし、眠っている千歳と遠山を見て、謙也へと視線を向けた。
財前の隣に立っていた人だという認識はあるらしくぼんやりと考えていると謙也と目があってしまった。

ハッとしてすぐに視線を逸らそうとするが、謙也はすぐに目を細めて笑みを浮かべる。
近づいてくる謙也に早まる心臓。そうしている間に謙也は綱吉の前まで着くと腰をかがめて顔をのぞかせてきた。


「なんか探してるん?」

「……」


やさしい声だった。
しかし、綱吉は答えることなく口を噤んで俯き、袖を掴む力が増していく。
あからさまに、しかもここまで拒絶されると落ち込んでしまうな、なんて謙也も頭の中で思う。
隣にいる柳生に視線を移そうが苦笑しているだけだ。
ということは、知らない。または、わからない、ととらえて良いだろう。
ふと、辺りを見回して何人かいないことに気が付き納得した。


「切原?」

「………」

「仁王?」

「………」

「…(まさか)…光?」


疑念に追われながらも顔をあげる綱吉に笑顔を向けた。
なんだ、探していたのは光だったのか…そう思って笑みを深める。


「光なら、あっちに居るよ。逢う?」




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