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そして君はサヨナラと言った
怯えた君に差し出す掌 @



レジェンドの屋敷。
幸村の許可したあの場所に綱吉はぽつん、と立っていた。
湖に自分の顔を映して手を伸ばし、水面に触れて波紋を広げる。
手を湖に入れたまま指を微かに動かす。

冷たい…

そんな当たり前な事をぼんやりと思いながら手をゆっくりと抜いた。
ポタリ、ポタリと滴が垂れていく。

透明な液体に不思議と見入っていた、その時だった。


「綱吉」


草の踏む音と同時に聞こえた声にビクリと肩をはね上げて、おずおずと後ろを向く。そこに立っていたのはスーツを身にまとっている柳で、綱吉を黙して見ていた。
綱吉はホッとして立ち上がり、濡れている手を拭いてから柳のところまで歩いて行くと、何か用事か、というように首をかしげた。


「もうそろそろ、あいつらも来る。屋上に行かないとな」

「あいつら?」



さらに首を傾げてしまった。綱吉の中で“あいつら”が誰なのかわからないのだろうことは明白。
柳はやさしい笑みを浮かべて頷くと、綱吉の前に手を差し出す。

そっと置かれた小さな手を握り、柳は綱吉の足並みに揃えて屋上へと向かった。



屋上には既に、柳と綱吉を除くレジェンドファミリー幹部全員が待ち構えていた。
幸村の隣で足を止める柳と、彼の隣に立っている綱吉はキョロキョロとあたりを見回している。
柳の言う“あいつら”はまだ到着していないらしい。


「ゆっくりしていたところ悪かったね、綱吉」

「ううん、大丈夫。そろそろかな・って思ってたし」



ぎこちない小さな笑みでも、幸村は嬉しそうに眼を細めた。



「来ましたよ」


淡々と言う柳生に全員が柳生の見る先を見据える。
徐々に大きく聞こえてくる音に綱吉は少なからずおびえた。それに気付いたのか、柳は綱吉に耳を塞ぐように言うと両手を耳を添えた。
屋上に止まった大型ヘリから出てきたのは白石が束ねるファミリーだ。

白石を先頭に降りて、幸村もそれに近づくと互いに握手を交わす。


「久しぶりだね、白石」

「ああ、よろしゅうな」

「綱吉君は…相変わらずなん?」


白石の質問に、幸村は少し俯き、それでも苦笑混じりの笑みを浮かべた。
それがどういう意味か、わからないわけではない。
やはり。と内心呟き、チラリと目を配らせてみると柳の後ろに隠れている綱吉の姿。
思わず眉間にしわを寄せた。


「よっしゃーついたーーー!!」

「やっとかいな…」


赤い髪を揺らしながら下りてくる遠山は中学より成長し、今となっては白石よりも背が高くなり、声も若干低くなり落ち着きも出てきた。でも中身に変わりはないように感じさせる。

その後ろには謙也。欠伸をかきながら降りてきて背伸びをしている。
財前、一氏、小春、千歳もゆっくりと降りてきてはレジェンドをみると久しぶりの顔ぶれだと思わせてくれる。

そんな中、柳の後ろから顔を出そうとしない綱吉に柳は困った。
まさかここまでとは思っていなかったらしい。
仁王も微かに目を細め、綱吉に近づいて声をかけようとするが、その前に柳にしっかりとつかまり顔をうずめてしまった。



「綱吉…大丈夫ナリ、ここにおまんを傷つける奴はおらんよ」

「…………」


頑なに首を振り、拒み続けているし、震えている。
綱吉の行動に違和感を感じた財前は綱吉の前まで行くと名前を呼んだ。


「ツナ…?」



財前が首を傾げながら綱吉に近づいていく。
柳の前に立ち体を傾けて名前を呼ぶが、一向にこちらを向こうとしない。
無視されているわけではない。けれど、完全な拒絶に眉間に皺を寄せる財前は、柳に視線を移してどういうことだ、と言わんばかりの目で睨み付ける。

幸村と話をしていた白石は財前たちを見て話を中断し、口を開いた。



「財前。」

「!なんですの」

「なかなか言えへんかった…ごめんな。俺がちゃんと言っておかなアカンかったんやけど」


「……なに、を?」



「落ち着いて聞いてや。


綱吉君………記憶ないんや」





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100324
――――――

(…………は?)


あきゅろす。
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