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そして君はサヨナラと言った
プロローグ





「綱吉ー」



辺りを見回しながらその名の人物を呼ぶ銀髪の男。
名を、仁王雅治という。

両手をポケットに突っ込み、ゆったりとした足取りで屋敷の庭を歩きまわる。
木々が多いこの敷地ではボスと7人の幹部が居る場所。

なかなか返事のない綱吉に、仁王はため息を零してある場所へ向かった。

庭から少し離れていて、それでとても静かな場所。
屋敷の裏にある小さな湖に足を動かした。
獣道があるわけでもない。トラップが仕掛けてあるわけではない。ただ、人があまり寄せつかない場所なのだ。

仁王は一瞬躊躇い足を止めた。
あの湖と周りの草木は我らがボス・幸村精市が愛情込めて育てた花や木がある。
許可なく踏み入れればどれ程の罰が来るか分かったものではない。

氷の笑み。
そう例えた方がいいかもしれない。



「怒られるのは、いやじゃなあ…」


苦笑交じりにいう仁王は、踵を返そうと一歩足を後ろに下げてしまった。
でも、呼んで来いと言ったのは幸村だし、そうなるとどこであろうと綱吉のいる場所に行って呼ばなくてはならない。

言い訳を考えながら、追い風に背中を押されて重々しい足を動かした。

草を踏みしめ木々の間をぬって行くと、太陽の光を乱反射させて輝いているキレイで小さな湖とその近くで丸まっている綱吉の姿がそこにあった。
丸くなって寝ている綱吉に仁王は一息入れた。やはりここにいたのか、そう思わせる。
規則正しく呼吸をしている綱吉を見て、気配を消して近づいている仁王に気づいてないのだろうか。

驚かすのも一興で、それはそれで楽しいのだが。
仁王は気配を消すのをやめて、わざと草の擦れる音をならした。
一歩踏み出して、ゆっくりと口を開く。


「綱吉」


一定の距離を置いて声をかける。
ビクリと肩が跳ねて、もぞもぞと起き上がる。

ススキ色の髪が風に揺れてほのかに揺れている綱吉は、眠い目をこすって一生懸命起きようとしている。
その姿を見た仁王は綱吉に近づいて目の前でしゃがんだ。



「おはよ、綱吉」

「……おは、よー…」



重い瞼をゆっくりと開けて笑みを浮かべる。
そんなに寝ていたのだろうか、なんて仁王は頭の隅で考えながら綱吉の頭を撫でて立ち上がる。
未だに目を擦っている綱吉に視線を向けたまま、



「ゆっきーが呼んどったぜよ」

「…精市君、が?」

「来てほしいって。」



来て、欲しい…
仁王の言葉を反芻して、ようやく理解できたのか小さく頷いてのったりと起き上がる。

仁王は綱吉の手を掴んで立たせてあげると一緒に歩きだした。
あの湖は綱吉だけ特別にいちいち許可なくてもはいれるようにしている。
それだけ、綱吉があそこをよく使っているとわかっているから。


「綱吉。はっぱ」



肩についている、と指させば、恥ずかしそうにそれを払った。
隣でクク、と笑っている仁王につないだままの手で先を歩きだした。
彼なりの表現なのだ。

過去に重いショックを受けてしまったせいで表情が消えてしまった。
それに、気配に敏感になってしまい、無意識に気配を探ってしまう癖がついてしまった。

それも綱吉が以前にいたファミリー・ボンゴレの事件が原因となって。




「マサ。どうかしたの?」

「ん、なんでもなか」



相手の表情をよく窺っている。
綱吉をこんな風にしたファミリーを未だ許す気はない、と強く決めていて。




「でも、難しい顔してる…」

「実はな、綱吉」

「う、うん…」

「綱吉があとどれくらいしたら俺の身長を超すか考えてたナリ」

「…………ん?」



突っ込ませようかと思ったが、無理のようだ。
情報によると、綱吉はボンゴレにいたときは突っ込み要員だったらしいが。

今の綱吉は首を傾げて、頭に疑問符を浮かべているだけだ。
これでは仁王が滑ったように感じられる。



「…つまり、綱吉の成長のことぜよ」

「そう、なんだ」



なんだか納得していないようだが、まあ、五任せたと思い、内心ほっとした仁王は屋敷の中に戻って、赤い絨毯の上を歩いて幸村のいる執務室へと足を動かした。
途中すれ違うファミリーの人間に律儀に頭を下げる綱吉に対して、特に反応を示すことはない仁王。

性格がよく表れているようにも見える。



「綱吉」

「?」

「ここには、慣れたん?」

「よくしてもらってる…ありがとう、マサ」



そういう綱吉は仁王の手を握り返した。


あきゅろす。
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