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私はどうやら朽木様の部屋で寝ていたらしく、身体を起こした。
そこまで身体も痛くなく、特に異常はないから、ということで“離れ”に案内していただけると…。
でも、着いたのはとても立派な家。“離れ”と称すにはあまりに大きい。

ぼんやりとした頭で屋敷を見ていたら、朽木様が玄関の前で立ち止まった。






ガラッ
「好きに使うといい。」

「あ……でも…………」


こんなに大きな“離れ”を使っていいだなんて…なんか申し訳がない。

入るのを躊躇う私を見て朽木様から小さなため息が聞こえた。顔を上げてみると呆れた顔をしていて…ズキリ、心が痛む。

頭に乗る朽木様の手は撫でてくれていて



「兎に角、着替えてこい。中に家の者を数名、用意している。」

「は…………はい。」



迷いに迷ったあげく、白哉に一礼して、中に入る。

すると、女性が5人ほど座って頭を下げていた。





畳の匂いがする部屋で、初老の女性がコレに着替えてほしいと差し出してきた。
白と紺色の、落ち着いた色をしていて、


「それでは、着替え終わりましたらお呼びください」


指を揃えて頭を下げる女性を思わず止めた。
襖を閉めようとしていた女性はその手を止めて首を傾げる。

恥ずかしい言葉なのかもしれないけれど


「あ、あの…着付け、教えていただけませんか?」


顔が真っ赤になっている。
絶対に。
クスクスと笑いながら快く返事をしてくれた女性は私の前まで来て、「失礼します」と細い帯に手をかけた。

そう言えば私、なんでこんな恰好をしているんだろう。
確か、気がついたらこの格好をしていて…



「麗那様?」

「!…はい」

「クス、難しい顔をなされてましたので」



柔らかいこなし。
着々と着せられている私は、しまった、と心の中で悔いた。
教えて欲しい、なんて言っておきながらぼんやりと見ているだけでちゃんと見ていなかった。



「わからなくなりましたらお呼びください。お教え致しますので」

「は、い…ごめんなさい、えっと……」

「しずく。遠野しずく(トオノシズク)といいます、麗那様。どうか、しずくと呼んでください」

「呼び捨ては、申し訳ないですので…しずくさん、と呼ばせてください」



しずくさんは少し驚いたみたいで、目を丸くしたけど、「ええ」とニコリとほほ笑んだ姿はとても癒された。
用意されている服装に着替え終わったのか、しずくさんは「終わりましたよ」と、と立ちあがって襖を開けてくれる。
これから朽木様が待つ部屋に行くと言って。

部屋の前に着くとしずくさんは静かに膝を畳んで



「白哉様。お連れ致しました。」

「はいれ」



流れる様な口調で襖の先にいるであろう朽木様に向けて言葉を発した。
スグに帰ってきた返答に、襖をあけてくれたしずくさんは、立ちつくしている私に入るように言葉を促して。




「し、つれい…します」



躊躇いがちに中に一歩踏み出して、足を揃える。
そこには朽木様1人しかいなく、正座をして目を閉じて待っていた。
おずおずと進んでいく私に、背後で襖のしまる音を確認。
振り返ることなんてできずにいると、朽木様の目が開けられて、私をうつした。



「座れ」



朽木様の向い側には1枚の座布団が用意されていて、そこの座るように指示された。

私は大人しくゆっくりとそこに座り、朽木様と向き合う。どうも緊張してしまう




「服を用意していただき、ありがとうございます。」

「家の者には既に伝えてある。ここはお前の家で住むといい。それと、明日の隊首会で麗那のことを報告し、今後を決める。」

「………はい。」

「わからぬ事があれば、ここにいる者に聞いたり、使ったりして構わぬ。では、明朝来る。それまでゆるりやすんでおけ。」






朽木様は立ち上がり、離れを出る。

私は玄関先まで行動を共にし、朽木様を見送った。
私の後ろには先ほどと同じ5人の女性が肩を並べていて、朽木様に一礼しているのが視界に入っていた。
そして姿が見えなくなった頃、私は玄関に並ぶ女性に向って頭を下げた。



「如月麗那です、よろしくお願いします。」



わたしの行動に驚きつつも、全員が深々と頭をさげてきた。



「麗那様っ!お願いです、どうかお顔を上げてください!!」

「でも、私は…こんないい場所に居ていい者ではなくて……ですから、せめて私の前では肩の力を抜いてください。私は庶民です。このような待遇は、その…苦手なので。」




みんなは苦笑していた。

これを機に敬語をやめてほしいと言ってみたが、それは叶うことなどなく……でも少し肩の力を抜いてくれることを約束してくれた。



「では、麗那様、少し中をご案内致します。わからないことだらけでしょう?」



しずくさんがフフ、と笑いながら玄関の扉を開けた。
若い女性たちは中に戻って行って、私としずくさんの2人だけになって。



「お願いします。」

「離れといえど広いですからね」


さ、どうぞ。と私を中に入れて、玄関の扉を閉めた。
家を案内してくれるのはしずくさんともう一人…結菜さん。私と同じくらいの人。
3人で話しをしながら家の構造を見てまわった。

離れと言っていたが、本当に一つの一つの部屋は広くてまよってしまうのではないかと思うほどで。
この離れにはしずくさんたちも住んでいるらしく、用意されている部屋を除いても部屋は多かった。

ふと、一つの部屋の先に緑が広がっているきれいな縁側の部屋を見つけた。
ついつい立ち止まり、見入ってしまう。




「そして……?麗那様?どうかされましたか?」

「あ、いえ。ここ、すごく綺麗だなって思いまして。…あの、此処に居ていいですか?」

「はい。では、私たちは下がらせて頂きます。」

「まだ案内してない部屋はございますので、またの機会に案内させていただきますね」

「わかりました。どうもありがとうございます」





下がってゆくしずくさん達。静まり返ったところで、ちいさく溜息をついてしまう。
ぐるり、部屋を見渡して和で統一されたこの部屋に似合わないものを見つけた。

ネックレス…?
なんでこんなところにあるんだろう…朽木様の私物かもしれない


手にとってまじまじと見てみる。
懐かしい感覚に追われながらも、それを元の場所に戻して縁側に出た。

そこから見える、闇を照らす幾多の星と一つの月。

1つの柱に寄り掛かり、丸いオレンジ色の月を見上げた。




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