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第四幕




ふと天を見上げて、今度は手を繋いで歩く幸を見下ろした。また天を見上げて、磋伊は思わず出そうになるため息をかみ殺した。

「雨、降りますかね」

問えば、暗闇の中で、反応するように小さな影が動いた。闇夜でもよく光る瞳が天に向いていた。しばらくの無言のあと、幸は一言、さあ、と小さく返しただけだった。

「空は気まぐれですから」
「…気まぐれ、ですか」
「はい。…とっても」

評定の時とは全く違う、ゆったりとした口調だった。相変わらずキラキラ光る瞳は天に一直線に伸びていて、とても綺麗だった。不意にその瞳が磋伊を見て、少しドキリと背筋をのばした。

「…ただ、あのときの空は、しばしの潤いを呼び寄せる風がありました。……量はそんなに…ですが、降りますよ。きっと」

そうですか、と磋伊が呟いたどころで会話が途切れた。
思えば、言うほど仲は親しくない。それもそうだ、互いに会ったのが昨日で、そんな状態なのに寝床を共にしようと言うのだ。笑えない。

だが聞けば、幸は家とよべる場所もないらしい。だから引き続き磋伊の住処で預かることとなったが、磋伊とて仕事がある。帰蝶の身の回りの世話やら護衛やらをしていたら、当然帰りは遅くなる。
というか、城で寝泊まりすることも少なくない。

そこで考えたのが、帰るまでは女中たちに預ける、というものだった。幸も構わないと言ってくれたので、幸を女中に預けた。現在は長家まで帰るところである。
磋伊が泊まりの時は女中用の寝床を使ってもらう。幸の住居が決まるまで、であるが。


「そういえば幸殿、喉は渇きませんか」
「…長屋にはないのですか?」
「はい。そういうわけで、申し訳ないのですが、水を汲んでから帰ってもよいですか?」
「はい」



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