ロゼット村の使者 ―ホール― 依頼を終え、俺はホールへ入った。 「ただいま〜…っと」 ホールにはジェイドとルカがいた。 何やら話し込んでいるみたいだ。 「ようルカ。何話してんだ?」 俺はルカの肩を叩いた。 「あ、チルスおかえり。今ねここのところ新聞でもナディのテロ活動が多く載るようになったって話してたの」 ルカの手に視線を移すと、新聞が握られていた。 「その新聞読ませてもらってもいいか?」 「うん、いいよ。はい」 ルカから新聞を手渡され、俺はそれに目を通す。 そこには世界各地でナディがテロを起こしている記事が多々並んでいた。 「ふむふむ……この記事をみると、ナディはラルヴァに対しても反対を唱えているんだな」 どうやらナディはラルヴァも嫌っているようだ。 マナを使わないからてっきり賛成するかと思っていたのに。 「ええ。彼等は絶対的な『マナ至上主義』ですからね。「自然に反する」などと言ってマナ以外のエネルギーを否定するでしょう。」 「一体ナディは何がしたいんだ?」 「構って欲しいだけなんでしょう。相手が大きな国家なので自分達の器を勘違いしているのでしょう。」 何とやっかいな。 これじゃまるで子供のケンカに付き合わされてるみたいだ。 もっとも規模が大きすぎるので簡単にどうこうできる問題ではないが。 「それとこの記事を見て」 ルカに言われ、指が差された所の記事を見る。 「なになに…『ラルヴァ推進派、ナディと衝突。辺境の村壊滅』……ってやばいなこりゃ」 その記事にはラルヴァ推進派によってエネルギーをマナからラルヴァに変えた村がナディのテロにあった旨が書かれていた。 「問題はラルヴァは比較的マナが少ない村でのみ普及するようで、グランマニエなどの先進国では一切使われません。軍用に使用される危険がないのはいいですが、理由が不明です」 何しろラルヴァの正体が不明なのだから、由々しき事態だ。 「我々は引き続き、ラルヴァについて調査を進めます。あと、ロゼット村というところからグランマニエに難民受け入れの要請がありました。使いの者が機関室にきているので、顔を会わせてきてください」 「ん、わかった」 俺は依頼の報告も兼ねて、ロゼット村の人達にあいさつしにいった。 〜〜 ―機関室― 機関室へ入るとそこには五人ほど人がいた。 「では今ジェイドさんが難民受け入れの手続きをしています」 「ありがとう。流石は噂に聞いていたアドリビトムだ。」 頭に赤いバンダナを巻いた青年が深くお辞儀をする。 「私たちも何かお礼ができないでしょうか?」 「そうだ。僕たちもこのギルドで働かせてもらおう。僕たちはロゼット村でもギルドにいたんだ」 「いいですよ。優秀な子分が増えてますます海賊チャットが発展していきますね!」 「か、海賊!?」 一瞬その場の空気が凍る。 「まあ細かいことは気にしないでください。ではチルスさん――」 「はいはい部屋に案内させていただきますよ」 もはや条件反射並に体が反応する。 というわけで喜んで部屋の案内をさせていただきませう。 〜〜 「えっと、さっきの話、ここが海賊ってのは本当かい?」 バンダナの青年―クレスが先程のここが海賊だという話を気にしているようだ。 「いや、あの船長の先祖が有名な海賊だったってだけで、ここはふつうのギルドだ」 もはや俺ですら「アイアイサー」と言わなくなった今、何を持って海賊と言えるのか。 そう考えてみると海賊だと言い張るチャットがかわいそうだな。 「そうか、ならよかった」 クレスがほっと胸を撫で下ろす。 確かに自分達を救ってくれたギルドがまさか海賊だったなんて、考えたくもない。 「しかし船のギルドだなんて珍しいな」 「そうね〜」 後ろにいたチェスターてアーチェが呟く。 チェスターは弓を持っていて、かつては村で狩人をしていたそうだ。 アーチェはほうきを持っているが、清掃員ってわけじゃないよな? 「それにしても」 そのアーチェが突然俺の前に回り込んで来た。 「チルスって結構イイ男じゃん」 と、面と向かって言われてしまった。 「え、そ、そうか?」 なんだかんだそんな事を言われるのは初めてな気がするので思わず赤面してしまった。 「まったくいきなり何言ってんだお前」 「なに〜チェスターも言ってほしいの?じゃあ褒めてあげるね」 チェスターはやれやれといった顔になる。 「あれ?」 そこでその場の人数が一人足りないことに気付く。 「確かもう一人女の子がいたような……」 「すずさんならナディの動向を探りにいきました。」 「へぇあんな子が?」 「あぁ、すずはまだ幼いけど忍者なんだ。隠密行動には長けているよ」 そうだったのか。 道理で幼く見える割に大人しいと思った。 しかし今時忍者とは珍しい。 まさか本物に会えるとは… いつかサインでももらうか。 ……やめとこ、恥ずかしい。 〜〜 ―ホール― 「ん?」 何だろう、やけにさわがしいな。 見ると、科学部屋などがあるほうの扉のあたりがざわついている。 「どうかしたのか?」 俺は近くにいたリッドに聞いてみた。 「何でもケガ人が運びだされたようだ」 「何っ!?一体誰が――」 まさかギルドのメンバーの誰かが大怪我をしたというのか。 「いや、外から誰かがこの船に倒れ込んで来たらしい」 「そ、そうか……」 俺は胸を撫で下ろした。 とりあえず身近な人でなくてよかった。 「それで医務室に運び込まれて、今面会謝絶だってよ」 いや、ケガ人は重傷らしい。 早く治るといいが…… 〜数日後〜 「ただいま戻りました」 すずが調査から帰ってきた。 「よく戻られました。何か掴めましたか?」 機関室で報告を聞いていたジェイドと俺。 あ、いや俺はたまたまそこにいただけなんだが。 ぶっちゃけこういう話を聞いていると頭が痛くなるんだが。 「ナディに近づいてラルヴァの生成場所が分かりました」 「ジャニスの居場所ってわけだな」 ようやく尻尾を掴んだということか。 「それで近日中にナディの調査が入るとのことです」 「それはなりませんね。ジャニスには死んでもらうわけにはいきません」 おぉジェイド、あんたにも人並みの慈悲深さが―― 「少なくともラルヴァについて吐いてもらわないと。もっとも研究資料なんかがあれば限りませんが」 ――なかった。 やっぱりジェイド、お前は人間じゃねぇ。 「場所はアメールの洞窟の西川奥です」 「さて、誰に向かわせますか……」 ジェイドは顎に手を当てて考える。 「俺がいこう」 そこで俺が名乗り出た。 この目でラルヴァについて確かめたい気持ちがあったからだ。 「分かりました。では詳細については後で知らせます」 「わかった」 そうして俺は機関室を出た。 と、そこですずとすれ違った。 「あっ、すずちゃん」 俺の呼びかけにすずは「なんでしょうか」と言って止まった。 特に用はなかったのだが、とりあえずあいさつをしておきたかった。 「えっと、ナディの調査お疲れ様」 俺はそういってすずの頭を撫でた。 「あ………」 すずは一言漏らしたあと、何故だか硬直してしまった。 俺はその反応に自分のした行為に気が付く。 「あ、ゴメン…」 俺は慌てて手を離した。 すずは幼いが一人前の立派な忍者だ。 それがこんな子供扱いされては侮辱以外の何でもない。 「あ、いえ……」 ところがすずの方は意外に反応がなかった。 「でもすごいな。俺だったらきっと敵に見つかって丸焼きにでもされちゃうんだろな」 自分で言っておきながら、寒気が走る。 「ふふっ……」 が、どうやらすずにはウケたようだ。 うん、自虐、万歳。 「あ、私いま笑った……」 そしてすずは今度は自分が笑ったことに驚いたようだ。 以前クレス達に聞いたが、すずは滅多に笑わないらしい。 そうとすると、何だかすごい達成感を感じるぜ。 「あっ、そういえば俺任務があるんだった。」 そうだ。 こんなとこでゆっくりしている暇はないんだった。 「んじゃ行ってくるぜ」 「はい………あ、あの」 俺が行こうとするとすずに呼び止められる。 「あ、いえ、頑張ってください」 「お、おう」 すずは無表情ながらも明るい(気がする)顔で見送られる。 よーし、おじさん頑張っちゃうぞ! [前話へ*][#次話へ] [戻る] |