おいとま ―機関室― 「おはよーすチャット。なんか依頼くれー」 「前回と冒頭が同じじゃないですか」 さて久々に冒頭の使い回しをしたところで、今日の依頼いってみよー! 「テンションの高いところ申し訳ないのですが、チルスさんはしばらく依頼を受けるのを自粛してください」 「ナ、ナンダッテー」 チャットから衝撃の宣告を受けた。 「最近あなたが依頼を受けすぎている所為で、リッドさんやカイウスさんがサボりはじめているんですよ。」 「そいつは確かに問題だが、だからと言って別に少しくらいやってもいいじゃん」 「あなたがやるとすぐに依頼が消費されてしまうんですよ」 「それって元々来てる依頼が少ないんじゃ――」 「と、ともかくあなたには休暇を与えます!これは船長命令です!」 「(´・ω・`)ショボーン」 〜〜 というわけで暇をもらったわけなんだが、さてどうしたものか。 「あ、チルス。ちょうどよかった」 廊下を歩いていると、カノンノにあった。 その手には瓶ケースを抱えており、その脇にはさらに二つケースがあった。 「これらを研究室に運ぶの手伝ってくれない?一人じゃ重くって」 「お安い御用だぜ」 俺は脇に置いてあった二つのケースをひょいと持ち上げる。 「あ、そうそう」 「ん?なんだ?」 「それ劇薬だから、扱いに気をつけてねって」 「……………ガクガク」 とりあえず、この劇薬とやらを研究室へと運んだ。 〜〜 「ちわーす、お届けものでーす」 そう言いながら扉を開けると、リフィルがなにやら難しい顔をしていた。 「ありがとう、そこに置いといて頂戴。ねぇ、こっちに来てこれを見てごらんなさい」 リフィルに呼ばれ、俺とカノンノは彼女の元へ行く。 「何だそれ?」 リフィルが見ていたのは何か石版のようなもの。 うっすらと光る文字のようなものがうねうねと動いて見える。 「どうやら古代のものらしいの。でもこのような文字はどの文献にも載っていないわ」 まず動く文字というのは果たして読めるものなのだろうか。 どのみち俺には到底読めそうにない。 「我は…ニアタ・モナド…ディセンダーの…玉座なり」 ふいにカノンノが石版を見ながら呟いた。 その言葉は何かの文章のようだ。 「カノンノ、あなたこれが読めるの!?」 「え?な、なんでだろ……何だか話し掛けられたみないに頭に言葉が浮かんで……」 どうやらカノンノも意図的に読んだものではないらしい。 「ニアタ・モナド……聞いたことがないわね。」 リフィルはうーん、といった感じに考え込んだ。 「とりあえず調べて見るわ、ありがとうカノンノ」 ふとカノンノを見ると、不安そうな顔で固まっていた。 「カノンノ?」 「あ、ううん、ゴメンね。行こっかチルス」 俺が呼びかけるとカノンノは我に帰った。 カノンノは慌てるようにして研究室を出ていき、それに俺も続いた。 〜〜 俺達は特に話すこともなく、甲板に来ていた。 なんというか、気まずい。 「あの文字ね……」 ふとカノンノが口を開いた。 「見た瞬間に語りかけてきたの。あの海の声のニュアンスで」 「やっぱそうか」 なんとなくそんな気がした。 その言葉がカノンノとどういう関わりがあるかはわからない。 だが彼女が不安に感じているということくらいは分かる。 「私ね…恐いんだ」 「…………」 「海の声の正体が知りたくてこの船に乗ったんだ。でも今は知るのが恐い。希望が崩れそうな気がして……」 やはり両親であってほしいという願いは捨て切れないのだろう。 だが、彼女の両親はもういない。 つまり俺は結末の半分を知っていることになる。 「それだけじゃないんだ……ねぇ、チルスって「夢」ってある?」 「夢……あぁ」 ディセンダーとしての俺の夢。 それは自分の手で大切な人を守ること。 これは夢というよりただの願望かもしれない。 「私ね…今まで声を追うことを目指して生きてきたの。でも、もし仮に声の正体が分かったとして、そしたら私には何が残るのかなって」 カノンノは悲しむというわけでもなく、何かの抜け殻みたいに言った。 「私、何も残らないんじゃないかと思うの。なんか、ずっとこのままでいたいって思うけどそうじゃないんだよね」 ダメだ、彼女はかなり滅入ってる。 「そんなことはないぜ。」 「え?」 「カノンノはカノンノだ。今までもそうだったし、例え何があっても、ずっと。」 こういう時なんて言ったらいいか分からないな…… とりあえず自分を見失うな、みたいなことを言いたいんだが。 「でも……私は何を目指して…どんな夢を持ったらいいの?」 「そんなの後々考えてもいいんじゃないか?焦ったら変われるチャンスも見逃すぜ?」 「変われるチャンス……うん、そうだね。私頑張ってみる!」 どうやら理解してくれたみたいだ。 「んーそうだな、どうしても見つからなかったら……」 「?」 「俺と一緒にこの世界を旅しないか?」 「チルスと旅……うん、それ楽しそう!」 正直たった今考えた思い付きだが、喜んでもらえたようだ。 「ありがとね、チルス。それと変な話してゴメンね。」 「いや、またなんか悩みごとがあったらいつでも聞くぜ。」 俺達はそう言って船内へ戻っていった。 〜〜 さて、カノンノは依頼を受けにいくそうだ。 ほんじゃ、俺も依頼を受けるとするかな。 …って俺今朝休暇もらったばかりじゃん。 (´ ・ ω ・ ` )ショボボーン 「どうした?しょぼくれたような顔して」 文字通りしょぼくれた顔をしていると、セルシウスに声をかけられた。 「いやぁチャットからお暇もらっちまってさ」 ははは、と苦笑いする俺。 いや、別に悪いことじゃないんだけどね。 「おまえはただでさえ働きすぎなのだ。休みすぎくらいで丁度いい」 「でも俺別にぴんぴんしてるぜ」 ぶんぶん、と腕を振り回したり曲げたりする。 「そうか、しかし……肩は凝っているようだな」 「あ゛だだだだたただっ!?」 ぎゅむっ、と肩を強く掴まれる。 肩が凝っているのは事実だが、これでは凝っていなくても痛い。 「どれ、私が肩を揉んでやろう。悪いが部屋へ案内してくれ」 「へ?お、おう」 何だか突然のなりゆきで、セルシウスを部屋に連れてくることになった。 〜〜 ギシッ…ギシッ… ベッドが軋む音が聞こえる。 決して怪しいことをしているわけじゃないゾ。 「どうだ?」 「あ、はい、キモチイイデス」 横になっている俺の腰をセルシウスが指圧してくれている。 最初は肩を揉んでくれていたが、いつのまにやら全身マッサージになっていた。 「しかし本当にセルシウスはマッサージがうまいな」 「なに、精霊なのだから気の流れを読むのはたやすいこと。重みがついた今となってはそこを刺激すればいいからな」 「へぇ」 確かに的確に凝りをほぐしてくれている気がする。 それとセルシウスは氷の精霊。 手が冷たい。 それも相俟ってかなり心地良い。 「あ〜〜……」 かなりだらけきった声をだす。 このまま寝てしまいそうだ。 「…あまり無理をするな、ディセンダー」 「へ?」 セルシウスが突然呟いた。 「皆を守りたい気持ちは分かるが、おまえが潰れてしまってはいけない。おまえを想う者の気持ちも考えてやってくれ」 「大丈夫だってば、そんな心配しなくても無理なんかしてな――」 ググッ! 「あがぉおぉぁああ〜!」 「とにかく…この休暇中に充分に体を休めることだ」 「わかりましたっ!わかったからツボはっ、ツボは止めてぇえ〜!」 〜そして数分後〜 「ふぅ〜…かなり体が軽くなったぜ」 言葉の通り、体が浮く感じがする。 いまなら空をも飛べる気がするZE☆ 「そうか、それはよかった。」 「またいつか頼むぜ」 「あぁ、いつでも呼んでくれ」 そしてセルシウスは部屋を出ていった。 さ〜て体も軽くなったことだし、いっちょ依頼でも……… だから休暇中じゃん、俺 orz [前話へ*][#次話へ] [戻る] |