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俺がディセンダー?


―バンエルティア号・機関室―



 「えぇっ!?チルスさんがディセンダー?」

俺がディセンダーだという事をチャットに報告した所、案の定驚かれた。

チャットだけでなく、その場にいたリフィルやジェイドまでもが目を丸くした。


 「えぇ。私たちには見えないディセンダー特有の光が彼にはあるみたいなんです。」


 「どう見ても普通の人間にしか見えないんですが……」

 「俺だって信じられねーよ」

正直自分でもディセンダーは架空の人物だと思っていた。

流石に全身から光を放つようなきらびやかな人物だとか思ってはいないが、まさか俺がそうだとは。



何だか複雑な気分だ。



俺はその後の報告の話等を特に聞く気にもなれず、機関室を後にした。





 〜〜


ぶらぶらと歩いていて、気がついたら甲板にいた。

そこにはいつものようにカノンノがいた。

 「あ、チルス」


彼女はこちらに気が付くと、近寄ってくる。

その顔はとても嬉しそうだ。





そう、カノンノだけは俺がディセンダーだということを信じて疑わない。


というかこの子は最初から俺をディセンダーだと思っていたくらいだもんな。


それで俺がディセンダーだと分かった途端、今のように物凄く嬉しそうな顔をする。



 「やっぱりあなたがディセンダーだったのね」

 「らしいな。正直あんま実感沸かないけど」

まぁ「俺がディセンダーだ!」なんて言ってもしょうがないんだが。


 「えへへー、な〜んか、何だろ?」

 「ん、何だよ?」


カノンノは何かを言いたげにもじもじする。



 「あなたがディセンダーでよかった。」



満面の笑みでそう言った。


まぁ何と言うか、ここまで喜んでもらえるならディセンダーもまんざらではないな。




ところでカノンノさんはナニユエ頬を赤らめているのでせうか。


もしや今の言葉に深い意味でもあるのか!?




 「チルス…私ね……」


うわ、うわ、何この展開。


落ち着け、落ち着くんだ、俺。

た、確かにカノンノは可愛いし俺は別に構わなくぁwせdrふじこp@「




 「見つけました、チルスくん」


 「はひぃっ!?」


思わず奇声をあげて振り向くと、そこにはプレセアがいた。


 「あの…お話があるのですが」

 「あ、え、おぉ…カノンノ、いいか?」


 「ううん、いいよ。いってらっしゃい」


何と言うか、絶妙なタイミングだなこの子は。


 「んで、何の話だ?」


 「はい、先程セルシウスさん達が「ゲーデ」について話しているのを聞きました。」

 「ゲーデ……?」


はて、どこかで聞いた事があるような……

たしかスパゲッティにそんなような名前があったような。







いかん、腹減ってきた。




 「………以前、ジャニス博士を止めるのを失敗して世界樹が傷付いた時に、中から出て来た者です」

よだれを垂らしていると、プレセアがあきれた(ような)顔をして言った。


 「あぁアイツか。んで、そいつがどうかしたのか?」

 「セルシウスさんが彼は負の想年の化身だと言っていました。私たちはゲーデのことを詳しく報告していません。」

 「それで俺に相談しにきたのか」


プレセアはこくん、と頷いた。

確かに陰気臭いヤツだったが、まさか負そのものとは。


 「ところでなんでプレセア一人で報告に行かなかったんだ?あと、俺じゃなくてゼロスでもよかったんじゃ?一応あいつもいたし。」


あれ?
そういえばあの時ゼロスが報告してなかったっけ。


 「………………」


なんとなくプレセアが言わんとしていることが分かった。



というわけで俺達はゲーデの事を報告すべく、セルシウス達のところへ向かった。






 〜〜


 「何ですって?あなたたちはゲーデに会ったっていうの?」


リフィルにゲーデのことを報告したところ、驚かれた。

やはりゼロスはちゃんと報告していなかったらしい。



 「なんと、私が正気を失っている間に……ぬかった。」


 「それで、これからはそいつを捜して叩けばいいのか?」

 「いや、奴が今どこにいるのかを掴むのは難しい」

 「後は私たちで他に負を流す方法がないか調べるわ」


ふーむ、どうも事態が大きくなっているな。

まぁ俺達に出来るのは、いつもと変わらず依頼をこなして情報を得ることくらいだ。


とりあえず今日は疲れた。


ひとまず俺は部屋に戻る事にした。





 〜〜


 「おろ?」


自分の部屋に入るとやけに片付いていることに気が付く。


そして部屋の中にパニールがいた。


 「あらチルスさん、お帰りなさい。お部屋の方が少し埃っぽかったのでお掃除させてもらいました。」


 「あぁ、ありがとうパニール。」


見事なまでに部屋はピカピカになっている。


ベットなんかもシーツが変えられてまるで新品のようだ。



……はっ!
そういえばベットには俺の秘密の―――




 「ベットの裏にあったいかがわしい本は全て処分しました」


 「うわぁああぁぁぁん」



な、何てことを。


パニールさん、あなたは年頃の息子を持つお母さんですか?


いや、あながち間違いでもないか。



 「………というのは冗談ですよ。」

 「へ?」



しまった。

墓穴を掘った。



 「最近はよくこの部屋にカノンノも来るみたいですから、そういうのはなるべく控えてくださいね」

 「ハイ、スイマセン。」


ん?カノンノってそんなによく来るっけか?

この間だと寝込んでいた時はずっと看病してくれていたし、最近だと朝は起こしにきてくれているし……



めっちゃ来てるじゃん。



よし、今度からはもう少し部屋の掃除をしよう。




 「それでは私はこれで」


 「ありがとうな、パニール」

俺は再びパニールに礼を言った。










 「さて、と」

真新しいシーツのベットに寝転がる。


 「ディセンダー…か」

ふと冷静になって考える。

カノンノ以外の人がにわかに信じないのと同じように、自分自身よく分からない。

だっておとぎ話の主人公だぜ?


カノンノが好きな話の中では世界のピンチを救う英雄だって話だが。

当の本人は記憶のない身元不明者なんだがね。

なんならこの座をいっそカイルに譲渡したら彼喜ぶんじゃないか?


まぁ冗談はさておいて。


思えば俺はカノンノの話くらいしかディセンダーについて知らないな。


セルシウスなら俺をディセンダーと認識できるくらいだし、何か知っていると思う。


 「よし、ちょっくら話を聞いてこよう」


俺はベットから立ち上がり、セルシウスのもとへ向かった。





 〜〜


セルシウスは甲板にいる、とリフィルから聞いた俺は早速甲板にでた。


話通りセルシウスはそこにいた。



 「おーい、セルシウ――」


呼びかけようとして、やめる。


なんだろう。

セルシウスの後ろ姿がどこと無く悲しげに見えた。



 「……何か用か?」

セルシウスはこちらに気がつき、振り向き様に尋ねた。


 「いや、セルシウスこそどうかしたのか?」

俺が聞くと、セルシウスはまた空の方を向いた。


 「負がどんどん溢れている」


 「そんなものが見えるのか?」


 「精霊には人には見えないものを見ることができる。もっとも私は今限りなく人に近い状態だがな。」

 「へぇ……」


それも負の影響なのか。


 「世界樹が傷ついてしまった今、負を世界樹へ流すことが困難になってしまった。こんな身となってしまっては私にできることは何もない」


何だか凄く落ち込んでいるみたいだ。

確かに精霊の仕事が出来なくなっては、それこそ精霊といえるのだろうか。


 「でも人間ってのも悪いもんじゃないぜ?それにセルシウスは強いんだから、ギルドの役にたたないわけないだろ」


こういう時何言えばいいか分かんないな。
しかも精霊相手に。


 「すまない、思えば私は危うくディセンダーを殺めるところだったのだな」

 「まぁ結果的に生きてるし、別にいいって」

命の危険はこれまで何度もあったし。



あ、用事を思い出した。


 「んで、そのディセンダーについてなんだけど」

ディセンダーについて聞くのがセルシウスを訪ねた理由だった。


 「セルシウスはどのくらいディセンダーのことを知っているんだ?」

 「ほう」

 「いやさ、俺この船に来る前の記憶が無くてさ。ディセンダーだ、って言われてもイマイチ実感沸かないわけで」


 「不安か?」


不安――

確かに自分が本当は人間ではなかったとしたら不安を感じるだろう。

しかし悪いものではあるまいし、カノンノ達の事もある。

だから俺は首を横に振った。


 「ディセンダーは「光り輝く者」。この世界を正しき光へ導いてくれる。負を払ってくれたその光がディセンダーであるという何よりの証拠だ」


 「はぁ」


その後も彼女の話を聞いたが、世界を救うという話とかだとやはりピンと来ない。

しかしセルシウスのように負に取り付かれた者を助けることはできる。

人助け、なんてカッコイイ事は言わないが、それが俺にしか出来ないとあらばやるしかないだろう。


 「これからは負に侵される人間も増えるだろう。どうかディセンダーのその光で救って欲しい。」


 「任せとけって」


セルシウスの言う通り、これから負に関係した依頼も増えるだろう。






俺は新たなディセンダーとしての使命も背負う事になった。






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