新顔登場 ―科学研究室― 部屋に戻ろうとした途中、俺はジェイドに呼ばれ科学研究室へと来ていた。 「と、いうわk(ry」 「いい加減にしろ!」 もうこれ以上やらせてたまるか。 今日という今日はジェイドに説明してもらおう。 「やれやれ、仕方ないですね」 そこでジェイドは急に真面目な顔付きに変わった。 「先日船に担ぎ込まれた青年が目を覚ましました。名前はアッシュ。彼は元々ラルヴァを追っていました。しかしある日ジャニスの実験に巻き込まれ、ラルヴァをその身に浴びてしまったようです。それから彼の体は謎の不調を訴え、今では歩けないほど衰弱しきってます。そんな体でもジャニスを追っていたのですからたいした執念です」 「へぇそうだったのか。…あれ?ってことは――」 ラルヴァが人体に異常をきたす、という事ではないだろうか。 「えぇその通りです。ラルヴァの人体影響を立証できるかも知れませんね」 「やったな!」 俺は思わず歓喜の声を上げた。 これでラルヴァの正体に一歩近付いたかもしれないのだ。 「そうですね、彼も倒れた甲斐があったものです」 「あ………」 だがジェイドの言葉を聞いて唖然とする。 そうだ。 ラルヴァを受けた帳本人からすればたまったものじゃない。 仮にも喜ぶべきではないのだ。 「まぁまぁ、具体的な実証はあなたたちが持ってきた資料でじっくりさせていただきますよ」 その心を知ってか知らずか、ジェイドは微笑んだ。 「そ、そうか…アッシュは今どこに?」 「この話をしたあと、また倒れてしまいました。今も医務室で療養中です。ただ――」 「ただ…何だ?」 「いえ、あなたもラルヴァを追う以上、体に気をつけて下さい」 「へ?あ、あぁ……」 珍しい。 ジェイドが俺の身を案じるなんて。 こりゃ明日はなんか降るな。アシッドレインとか。 「それと今回の依頼は上出来です。充分過ぎる程の成果ですよ」 「っ!?お、おぅ……」 まさかあのジェイドに褒められるなんて…… 明日はアイシクルレインで決まりだなこりゃ。 「じ、じゃあ俺は行くからな」 ジェイドのその豹変っぷりに耐え切れず、俺は部屋を出て行った。 〜次の日〜 「これで依頼完了ですね。お疲れ様でした。」 依頼を終えた俺はチャットに報告を済ませた。 「よし、じゃあ次はこれを頼む」 そして俺は次の依頼を頼んだ。 「またですか?今日は朝からずっとやってるじゃないですか。」 「そうだぞ、少しは休めよ。もう7つ目だろ?」 チャットと、俺と一緒に組んでいたリッドに注意される。 「いや、8つ目だ。けどちゃんと休憩とってるから大丈夫だよ。それに今度は違う人と組むから、リッドは休んでていいぜ」 「いや俺はいいんだけどよ……気をつけてろよ」 俺は親指をビシッと立ててそれに応えた。 ― 「休憩つったってアイツ朝から絶え間無く依頼受けてをじゃねーか。一体いつ休んだんだよ」 「まったくチルスさんはどうしたんですかね?」 「さぁな。なんか大金でも必要になったんじゃねぇの?」 「まぁ子分がよく働いてくれてボクは助かるんですがね」 チャットはそう言いながらも、複雑な表情をしていた。 〜〜 ―ペリー鉱山― 「うおぉぉおぉーっ!!」 俺はバットの群れの中へ突っ込んでいく。 「奥義!裂空刃ッ!!」 そして渾身の力で剣を振り、真空の刃でバットを切り裂いた。 周囲にバットの残骸が落ち散る。 「ふう、いっちょ上がりっと」 俺は額の汗を腕で拭った。 うん、剣の調子はいい感じだ。 「(ただこれだけじゃ駄目なんだよなぁ……)」 そう、まだまだ足りない。 これではカノンノにまた怒られるかもしれない。 「お疲れ様です、チルスさん」 パーティーを組んでもらったミントが駆け寄ってきた。 彼女に組んでもらったのはある目的があった。 いや、別に変な意味じゃないぞ? 「ところでミント、一つお願いがあるんだけど――うっ、あたたたた」 そこで左手の傷が痛みだす。 そろそろ無理がたたったか。 見ると、包帯に血が滲み出てた。 「大丈夫ですか!?待ってください、今治してあげますから」 ミントは慌てて駆け寄って来て、傷口に優しく手を触れた。 そして目を閉じて、左手に癒しの力を感じる。 「これで大丈夫ですよ。それでお願いって何でしょうか?」 「ありがとう。実は俺にも法術っての教えてくれないか?」 ミントを連れて来た理由はこれだった。 とりあえず自己回復が出来るようにはなろうと考えたのだ。 「私が…ですか?でも一体どういった理由で?」 「実はな――」 俺は昨日のカノンノとの出来事をかい摘まんで説明した。 「――というわけなんだ。せめて自分で回復できたらなって思って……あ、別にどうしてもってわけじゃないんだ。嫌なら断ってくれていい。」 「いえ、そういうことなら出来るかぎりお手伝いいたします」 「本当か!ありがとう」 「ただし」 俺は喜ぶと、ミントがそれを遮った。 「それなら尚のこと、無理をしてはいけませんよ。またカノンノさんが悲しんでしまいます。傷もありますし今日のところは帰って安静にしてましょう」 「あ、あぁ分かった」 「では戻りましょうか」 ミントに言われ、俺は仕方なく戻って待機することになった。 〜〜 ―バンエルティア号・自室― 「ふ〜ぅ」 俺はベットに寝転んだ。 ミントの言い付け通り、安静にしなければならない。 本音を言うと、今日は夜まで依頼を受け続けるつもりだった。 しかし今はまだ昼過ぎ。 ミントに習うのもまた後日だし、他にこれといってすることがない。 「ちっとぶらぶらしてくるか」 仕方がないので俺は船内をぶらつくことにした。 〜〜 ―ホール― ホールまでやってくると見慣れない二人組がいた。 一人は髪が黒くて長い男で刀を持っている。 もう一人はピンクのショートカットの可愛い女の子だった。 ギルドに依頼をしにきた客人だろうか。 「いいんですか?不法侵入は禁固一年、もしくは一万ガルド以下の罰金ですよ」 と、思いきやあまり穏やかな話の内容ではなかった。 「ふーん、んじゃお前だけ戻れば?」 「う…」 なんだこの男は? 女の子の方も困ってるじゃないか、けしからん。 「しかし、妙な船だな…」 「そんなこと言うと、船長さんが悲しむぜ?」 突然現れた俺に二人は驚いたようだ。 「おや、チルスさん。依頼のお客さんですか?」 すると甲板口の方からチャットとジェイドが降りて来た。 「お前らは……?」 「ボクはチャット。このバンエルティア号の船長です」 「私はジェイド。どうか御見知りおきを」 「あ、俺はチルスね」 一応自己紹介しておかないと忘れられそうなので念のため。 「依頼というと?」 「えぇここは漂泊のギルド、アドリビトムですよ」 少女の問いにチャットが答える。 「ギルドか、なら俺達をかくまって欲しい。」 「では依頼、ということでよろしいですか?」 「依頼…ここはギルドですよね?私達あまり手持ちが無いんですが…」 「だったらギルドで働いたらいいんじゃないか」 少女の困った顔を見て、俺はチャットに提案した。 「構いませんよ」 意外にあっさり承諾したチャット。 「相手の諸情も詳しく聞かずに、ですか?」 「船長が決めたことに何か文句でも?」 「はいはい、アイアイサー。追っ手の方もこちらで処理しましょう」 ジェイドももはやノリノリである。 「すまない。俺はユーリ。でこっちの娘は――」 「エ、エステリーゼです」 「はい、わかりました。また子分が増えましたね!」 「こ、子分?」 エステリーゼが不安な顔になると、すかさずジェイドが答えた。 「はい、ようこそ海賊チャットへ!」 「ではチルスさん――」 「部屋にご案内ですね分かりました」 「返事は――」 「アイアイマンッ!」 もうどうとでもなれってんだ。 「か、海賊?」 「おい海賊ってどういうことだ?」 やはり海賊というフレーズが気になるのか、他の人と同様の反応を示す。 「まぁドンマイってこった」 とりあえずこう言って二人を部屋に案内することにした。 こうしてアドリビトムに二つの新しい顔が増えたのだった。 [前話へ*][#次話へ] [戻る] |