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暴走ロボ“コムリン”にアレンと秋羅が収容され残るリナリーは大ピンチだった。
エクソシストは獲物。
標的をリナリーへと変えたポンコツにコムイは泣き叫んだ。
ギャァァアア、と最早何も役に立たない寧ろ邪魔なコムイ。
その目からはまるで漫画のような洪水の涙が出ていた。


「マッチョは嫌ー!起きるんだリナリー!」


反応しないリナリーに迫りゆくポンコツ。
必死に叫ぶコムイの言葉は虚しく、ドンッ、とコムリンはリナリーに突っ込んでいった。


ドカァァンッ!
「キャアアアー、リナリー!リナリー!ボクのリナリー!!」


助けようと手すりから落ちんばかりのコムイをひたすら科学班の人達は掴んで止めた。
このまま前に進めば確実にコムイは落ちる。
下に広がる闇に綺麗に吸い込まれるだろう。
そんな時、ポンコツに捕まったと思われていたリナリーはコムイのすぐ前、大砲の先に立っていた。
まだ起きたばかりで今にも大砲の先から落ちそうなリナリーは仕切りに何かを探している。


「アレンくんと秋羅くんの声が聞こえた…帰ってきてるの…?」


リナリーはまだ覚醒してはいないがイノセンスを発動し、服の切れ端を持っているリーバーをその目に捕えた。
それに気が付いてリーバーが声を張り上げる。


「リナリー!!この中に二人が…」


リナリーの対アクマ武器“ダークブーツ”は胡蝶のように天空を舞い鋼鉄の破壊力で地に墜ちる。
地を蹴ったリナリーは一瞬でポンコツとの間を詰めると架かと落としを食らわした。
リナリーの早さに全く衝いていけないコムリンを情け容赦なく破壊していく。
すると、コムリンの体が真っ二つになり二人が顔を出した。


「やった…二人とも無事か!?」
「僕はなんとか…けど、秋羅が…」
「!」


ぐた…、としている秋羅を一先ず安全な場所に寝かせてリーバーは脈を測る。


「「ブッ壊せー♪♪ブッ壊せー♪♪」」


科学班一同のブッ壊せコールに合わせて、リナリーは少しずつポンコツに近づいく。
すると、リナリーとポンコツの間に誰かが割って入った。


「待ってリナリー!コムリンは悪くない!悪いのはコーヒーだよ!!」


思っていた通りの邪魔者コムイは手を広げてコムリンの前に立ちふさがった。
リナリーはいつも通り笑みも見せずに無機質な表情を浮かべる。


「罪を憎んで人を憎まず…コーヒーを憎んでコムリンを憎まずだ…リナリー」


大切な仲間を危険にさらした機械に今更同情の価値はない。
勿論、それを庇う兄も同等に価値はなかった。


「兄さん…ちょっと反省してきて。」
ドガッ!


容赦なくコムイごとコムリンを蹴っ飛ばすリナリー。
一人と一体は教団の地下へとまっ逆さまに落ちていく。
その深さにより段々と叫び声は小さくなっていき、やがて声は聞こえなくなった。


「リーバーさん!秋羅は!?」
「意識を失ってるだけだ。」
「……よか、た…」
「!…おいアレン!」


意識を失っているだけだと解った途端にアレンも暗い闇へと意識を落とした。






 * * *


長い夢を見ていた気がする。
何故か重い身体に目を開けると見慣れた天井と見知った気配を近くに感じた。
見慣れた天井がかなり大破していることでアレは夢ではなかった、と再確認する。
ふと、横に視線を移すと隣に寝ていたのかアレンの背中があった。


「おかえりなさいアレンくん。」


リナリーが笑ったのだろうか、横顔しか見えないがアレンの頬はほんのり赤くなっていた。
「初々しいな。」と何処か親の心境になったのはアレンの性格からかリナリーの影響か。


「た、ただいま…」


しどろもどろに答えたアレンに「よかったな。」と心の中で小さく苦笑を浮かべる。
帰る場所がなかったアレン。
今は教団がアレンの家だ。
「少し意地悪をしてやろうや。」と愉しげに口の端をあげる。


「可愛いとか思ってんのか?ふふ、何たって教団のアイドルだもんなぁ?」
「う、え、なっ!秋羅!?起きて平気ですか!って、違いますよ!!ぼ、僕は…」


俺の存在にやっと気が付いたのか、アレンは顔を真っ赤にして狼狽えた。
すぐに立ち直ると「勘違いです!」と怒るアレンは真剣でその意味が解らず首を傾げる。
何をそんなにムキになっているのだろうか。
別にリナリーは普通に可愛いんだから否定しなくてもいいのに。


「あ、そうか。ごめんアレン…俺、ちゃんと考えてものを言えばよかったよな。」
「え…突然、どうしたんですか…?(まさか僕の気持ちがバレたんじゃ…)」


アレンの気持ちなんかお構い無しに話しすぎた。
少し考えれば解ったことだったのに。
まだまだ俺も駄目だ。


「リナリーのことコムイにバレたら面倒だもんな。」
「へ!?」
「いやぁ、悪かった。あんなシスコンに狙われたら命がいくらあっても足りないもんな。」
「い、いや、あの…」
「これからは気を付けて発言するよ。アレンはリナリーが…」
「だから誤解ですーー!!」








「……秋羅くん。そんなにからかったらアレンくん可哀想だよ。」
「……へ?」


今まで傍観していたリナリーが割って入ったことにより、アレンで遊んでたことがバレた。
「はは…」と苦笑を浮かべれば恨みがましいアレンの視線が向けられる。
それには気付かない振りをして近づいてきた気配に視線を移した。
来たのはリーバー、ジェリー、一部の科学班の面々。


「おー二人とも目が覚めたか。」
「一体、夜に何があったの。場内ボロボロよ。」
「アレン。お前の部屋は壊れてたぞ。」
「ええ!!」
「あ、秋羅の部屋だけは何故か無事だったけど。」
「どうしてですか!?」


あり得ないと驚くアレンに口の端を上げて笑ってやる。
あんなことが起こって尚且つアレンは被害者なのに部屋は破壊された。
事の元凶コムイは元気に普通に今日も生きているのだろう。


「ふふふ、当たり前だろ?俺の部屋が壊されてたらコムイはこの世にいないからな。」

「「「え゙!?」」」

「はは、冗談だよ。」


「秋羅が見せた表情は絶対本気だった」と心の中で通じあった科学班+アレン。
それに気が付いた秋羅が、ニコ、と笑みを浮かべるとその場にいたリナリー以外の面々は顔を真っ青にした。
リナリーは困ったように笑うと忘れてたと「あ」と声を洩らす。
一斉にリナリーを見れば満面の笑みで口を開いた。


「おかえりなさい。アレンくん、秋羅くん。」

「「「おかえり。」」」


口々に「おかえり。」と声を掛けてくれるみんなに秋羅は一瞬だけ哀しげに眉を寄せると隠すように顔を伏せた。
その言葉を言ってしまえば俺はきっと“俺”を保てなくなってしまう。
まだ言えない。
言ってはいけないんだ。


「ただいま。」


返したアレンの言葉に顔を上げて、ニッコリ、とリナリーたちに笑い返す。
これが俺の答えだ。
2年も一緒に居れば流石にリナリーたちは気付いている。
俺が「ただいま。」と返さないのは教団を“家”だと思っていないのだと。
そんな顔をしないで。
俺はココを“家”だと思ってはいけないんだ。
みんなの気持ちは痛いほど解る。
解るから解っていたからこそ、俺はまだ決意出来ないのだ。



無くしたくない。



壊したくない。



失いたくない。



あの頃の俺にはなくしてしまったものが大き過ぎて、どうしていいかなんて解らなかった。
だから、今でも迷ってしまう。




本当にこの選択で間違っていないのか。




本当にこの選択で悔いは残らないのか。




正解なんてないのは解ってる。
俺が本当に進みたい道は進んではいけない“――”との道。

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あきゅろす。
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