2 これはマテールの町から帰還した夜中の出来事。 始まりはいつもと変わらない任務帰りからだった。 ただ少し違ったのはやたらと疲れたリーバーと意識を失ったリナリーの存在。 あんなことになるなら嫌、前もって知っていたならば無理にでもユウに着いて行きたかったと心の底から後悔した。 原因は数時間前に遡る。 教団に予定よりも着くのが遅くなってしまい。 スッカリ空は真っ暗。 眠いなんてもんじゃない程で欠伸<アクビ>を何回噛み殺したことか。 「だいぶ遅くなっちゃいましたね〜〜〜」 ふぁぁぁと伸びをしながら、欠伸をしたアレンに「やっぱ疲れてんな。」と苦笑を浮かべる。 初任務であれだけの事があり精神的にも肉体的にも限界のはずだ。 出来ることなら早めに提出を済まして寝かせてやりたい。 「向こうを出た時はこんな遅くなるとは思わなかったしな。」 「この嵐で汽車が遅れましたから…」 「もう真夜中だなあ…回収したイノセンスはどうしたらいいのかな。」 アレンは目を擦りかなり眠たそうにしている。 今すぐにでも寝かせてやりたいとは思うが、その前にイノセンスと報告書の提出があるのだ。 アレンに教えておかなければ後々面倒なことになる。 教えるまでは寝るに寝られない。 それにララのイノセンスをアレン自身が渡した方がいいだろう。 「あー、連絡入れといたから科学班なら起きてるぞ。行こうか、アレン。」 「はい。」 ドサッ! 「?」 階段を登ろうとした瞬間、急に何かが倒れる音がした。 顔を向ければ意識を失って倒れているリナリーが目に映る。 唖然としたアレンの隣で突然のことに対処できなかった秋羅きょとんと首を傾げた。 だが、すぐに我に帰った二人は急いでリナリーに駆け寄った。 「リ、リナリー!?」 「大丈夫か!」 声をかけるがやはり反応がない。 抱き起こしてみるとやはり意識が無かった。 「何が起きたのか。」と眠かった頭は覚醒する。 ふと、見知った気配に顔を上げると階段の上から影が現れた。 「も、戻ったかアレン、秋羅…」 随分とやつれたリーバー。 何故か身体中が、ボロボロ、になっていて体を引きずりながら必死に歩いてきた。 やはり教団内で何かあったようだと眉を寄せる。 肩で息をしているリーバーにアレンが慌てて声をかけた。 「リーバーさん!?そのキズ…何があったんですか!!」 リーバーはアレンの所まで歩いてくると寄りかかるように、ドサッ、と倒れこんだ。 「に…、逃げろ。コムリンが、来る…」 「!」 途切れ途切れのリーバーの言葉と「コムリン」という聞いたことのない単語。 アレンは訳が分からないと口をポカーンと開いた。 だが、秋羅はコムリンと聞いた瞬間に雰囲気が変わってしまう。 それは怒りを通り過ぎた真っ黒な怒りだった。 「……今、コムリンと言ったか…?」 ドドドドドドッ! リーバーに聞き返した言葉は地鳴りによってかき消される。 聞いたことある地鳴りに悪い“予感”ではなく不愉快な“悪寒”を感じ取った。 当たってほしくない、この地鳴りの主の正体。 俺の頭上が大きな何かにより陰った。 ドガァァンッ! 「チッ、やっぱな…」 壁を突き破って出てきたのは頭にKの帽子を乗せたロボ。 「来たぁ。」と冷や汗を流しまくるリーバーの隣のアレンの目は期待通り飛び出していた。 「おま…」 ザパァァンッ! 「チッ…」 ことごとく言葉を邪魔されているが俺は今、そんな場合ではなかった。 奴はココまで来たそのままの勢いで勢いよく水路に落ちていく。 序<ツイ>でとはがりにその場にいた俺たちは必然的にびしょ濡れ。 変なモノを見たとばかりに「え゙ぇ゙え゙!?」と取り乱すアレンを落ち着かせる余裕は俺にはなかった。 「そのまま沈め。」と試しに心の中で何回も唱えてみる。 「な、何アレ?何アレ!?」 だが、秋羅の願いも虚しくロボは、ザバー、と水路の中から無事に生還を果たす。 また苛々と舌打ちをした秋羅の鋭い殺意がある眼光で今なら軽く4、5人は殺せそうだ。 ((やっぱ、あれくらいじゃ駄目か…)) ピピピピ… 「発…見!」 嫌な予感は止まらない。 俺たち(アレン)が慌ててる間にロボは標的を定めたらしく面倒なことに識別を開始した。 「リナリー・リー、アレン・ウォーカー、アキラ・スズムラ。エクソシスト三名発見!」 「逃げろ!こいつはエクソシストを狙ってる!!」 「……あいつの所為か…」 「へ?秋羅…?」 慌てふためくリーバーと何故か怖いくらい笑顔の秋羅(黒)。 だが、アレンの声も届かないほど秋羅の腹の中は煮え繰り返っていた。 その顔は笑顔だが雰囲気と目はだけは決して笑っていない。 リーバーの必死の説得もココでは意味を為さないだろう。 「ふふふ。なあ、リーバー?あいつは俺の許しもなしにまた作ったんだな?」 「あ、いや…」 「そうか。あれでもまだ足りなかったのか…ふふふふふ。」 「(怖ッ!)」 「(ヤバイ…!)」 笑っているが目が笑ってない秋羅にリーバーだけでなくアレンも危険を察知する。 何故か言葉を向けている相手が違うのに二人の背筋に悪寒が奔ったようだ。 ぶるっ、と肩を震わした二人に動き出したロボに気付いて、秋羅が眉を寄せる。 「ボーッとしてんな!一先ず逃げるぞ!お前らあんなやつに捕まりたいのか!」 秋羅の激?により我に返った全員は走りだした。 アレンはリナリーを背負って先頭を走りだす。 だが、後ろから「手術ダー!!」と叫び声をあげロボも負けじと階段を壊しつつ追ってきた。 「なあ、アレ壊していいか?勿論大技使っていいよな?」 「え゙、秋羅…?」 「やっぱりな…」 大きなため息とともに小さく呟いたリーバーにアレンは意味が解らず首を傾げる。が、すぐにその意味を理解することになった。 「あいつは今すぐボロボロにして塵も残さず焼却炉(そんなものはない)にブチ込んでその灰が跡形もなく粉になって風になって綺麗に吹き飛んでエコに役立ってコムイが泣く様を見ねーと俺の気は全くおさまらねぇ… てか、コムイ死ね!」 「秋羅ーー!意味がわかりません!!は、早く戻ってきてくださーい!!」 泣き叫ぶアレンにぶっ壊れた秋羅。 最早、この場の収拾はつかなくなっていた。 アレンは一度後ろを振り向くと助けてと言わんばかりにまだ冷静なリーバーを見る。 「リーバーさん!あれはなんなんですか!もう訳がわかりません!!」 「ウム、あれはだな!コムイ室長が作った万能ロ…」 「ポンコツバカだよな?」 「……す、すみません。とにかく“コムリン”つって…見ての通り暴走してる!」 「何で!?」 初めての経験にアレンは焦りを通り越して死にもの狂い。 だが、一番大変だったのは会話にも入ってこない(入れない)で何も話していないトマだった。 「ふふふ。何でなんて聞く価値もないだろ?今ここで俺が始末するんだからな。覚悟しやがれ、このポンコツがーー!!」 「い、いけません鈴村殿!!刀を納めてください!」 すらり、とイノセンスを抜いた秋羅を取り押さえるトマ。 ロボは壊れるだろうが、このままでは教団ごとロボをぶっ壊しかねなかった。 暴走しているロボと違う意味で暴走している秋羅。 命を顧みず必死に秋羅を引きずりながら走っているトマにアレンは敬意を称した。 「(トマ…生きてくだ…)」 「はっ、俺が壊してやるよ。その無能な頭をな!」 「後生ですからーー!!あんたは教団ぶっ壊す気ですか!!」 ぴたりと動きを止めた秋羅にトマは「止めてくれたのか」と息を吐き出す。 だが、口を開いた秋羅は大真面目な顔をしてとんでもないことを言い出した。 「何言ってんだ。当たり前だろ?俺の怒りは教団をぶっ壊して修理代をコムイの全給料で補っても全然修まんねぇ。寧ろ俺たちに慰謝料よこせや。」 「お、おい。秋羅、それはまずいいんじゃ…」 「あ゙ん?なんだよリーバー。この俺に…」 「手術ダーー!!」 「ぶっ壊れろ!!」 「「うわーー!!」」 再び刀を構えた秋羅の首根っこを引っ掴むとトマは引きずるように階段を駆け上がった。 先ほどから苦労の絶えないトマにアレンは尊敬の眼差しを送る。 命懸けの鬼ごっこを誰が制すのだろうか。 [前へ][次へ] [戻る] |