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もしかしたらゴズは以外と大物かもしれない。
ファインダーがユウに対して未だかつて「ステーキを追い掛けて」などと馬鹿正直に話した奴なんていただろうか。
素直なのか純粋なのか、はたまた只の馬鹿なのか、こいつはよく分からない奴だ。


「……秋羅。」
「…ん、なんだ?」
「さっき、お前が来る前にアクマに会った。多分、森の外で逃がした奴だ。そいつは“あの御方の命令”で村人には手を出してないと言っていた…」
「……そうか。」


ユウを見上げるとその瞳をじっと見つめた。


『ユウ。』
『なんだよ?』
『敵は俺たちを狙っているみたいだ…』
『急いだ方がいいな。』


ユウは店主に向き直った。


「じいさん悪かったな。あんたはこいつを助けようとしたのに。」
「お願いだ。黙ってこの村から去ってくれ…今なら間に合うかもしれん。」
「どういうことだ?」


店主はユウのの問いには答えず、何かに怯えるようにユウのコートの裾にすがりついてきた。


「私には…これ以上は言えない。頼む。店には寄らずにまっすぐこの村をでてくれ…ここには魔女がいるんだ。」


それだけ言うと力つきたように店主はがっくりと床に手をついた。
今まで繋がらなかったピースが一つになっていく。
それに周りの霊も口々に言っていることは同じ。


「助け、て」
「解放して…」
「お願…い」
「連鎖、を…たち切…て」
「もう…嫌、だ…」


ぐっ、と拳を握り締めて胸の前で祈るように組み合わせ静かに瞳を閉じる。
力を振り絞って伝えてくれた言葉に「ありがとう」と小さくお礼を言った。


「ま、魔女って何ですか!?」


慌てるゴズの襟首をつかみユウは強引に引っ張って外に出ていく。


「行くぞ!ゴズ!!」


秋羅は顔を上げると出ていくユウに頷いてから、床に倒れる店主に近づいて静かに見据えた。
その瞳はまるで後悔に包まれている店主の心の中を見透かしているようだった。


「あんたはそれでいいのか?」
「!」
「まあ、俺にはお前の気持ちは分からなくはない。だがな…殺された者はどう思う?求めた者はどうなった?」
「わ、わたしは…」
「ただ無念も晴らせず、後悔に縛り付けられて、この地をずっと彷徨い続ける。」
「…っ」
「全ては偽り。」


何も言わなくなった店主が床に手を付くと、外からユウの声が聞こえてきた。


「秋羅、置いてくぞ!!」
「あらら…怒ってんなぁ。」


もう一度だけ店主に視線を送ると、背を向けて外に通じる扉へとゆっくりと歩きだす。


「ソフィアとアンジェラ、か。いい名前だな。」
「何故、その名を…!」


微かに反応した店主に気が付かない振りをして、扉を潜って外に向かう。
店主に理由を告げることはない。
この問題は自分で考えてほしい。
そのまま一度も振り向かずに外へと足を運ぶと、丁度よくゴズが大きく手を広げ深呼吸をしていた。


「ようやく普通に呼吸が出来ますねぇ!!」
「どういうことだ?」
「あの小屋。すごく腐った匂いが充満してて…しかも埃っぽいし一日こもってたら病気になりそうですよ。」
「まあな…」


ユウを見つめながら哀しげに眉を寄せた秋羅。
それは一瞬ですぐに空に視線を移した。


「お前はここにいたほうが……いや、いい。」


言い掛けた言葉を飲み込んでユウはゴズをちらっと盗み見た。
こんな場所にゴズを一人で放っておく訳にはいかないと思っているのだろう。
確かにここはもう安全とはいえない。
何せ魔女がいるのだから。


「どこに行くんですか?」
「店に戻る。」
「はい!!」


何も気づいていないらしいゴズがかなり明るく返事をしてきた。
この場にそぐわない奴、と思ったがこの空気を打ち壊すくらいが今は丁度いいだろう。


「でも本当に人の気配がしないですよねぇ。まあ、真夜中ってのもあるんでしょうけど。」


ゴズが道すがら、一軒の家を見掛ける度にきょろきょろと辺りを見回した。


「本当に人が住んでいるんですかねぇ。もしかしたらこの村には俺たち以外、誰もいないんじゃないかって思いません?」
「…かもな。」
「…だな。」


まさか俺たちから返答が返ってくるとは思ってなかったようだ。
かなり驚いたようで目を見開いてこちらを振り向く。
秋羅は小さく「失礼な奴」と呟いてゴズに呆れたように視線を向けた。
ユウは未だに驚いて言葉を失っているゴズから視線を外すとこちらに振り返った。


『人間は俺たちしかいないようだな…』
『ああ。ゴズは全く気付いてないけどな…』
『お前、いつ気づいた?』
『さっきだよ。教えてくれたんだ…』
『そうか…』


店の前に着くとアイコンタクトをやめて、ユウから視線を外して扉を見据える。
軽く一呼吸した。

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