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鍛錬を終え食堂で少し早い朝食も食べ終わり、部屋に戻る途中俺はリナリーに声をかけられた。
任務だって、と笑って話し掛けて来たリナリーに同じように笑いかけてお礼を言う。
今、教団にいるエクソシストはリナリーと俺を含めて4人だ。
ユウもラビも昨日から任務に出払っていてココにはいない。


「あ、秋羅くん。もう脚の怪我平気…?」
「……へ?」
「昨日ラビが任務に行く前に聞いたの。」


考え事をしていた最中、リナリーの口からとんでもないことが言われた気がする。
まさか、と軽く眩暈を起こしたが何とか平静を装って首を傾げた。


「…あー何て言ってた?」
「少し前まで怪我してたとしか聞いてないけど、秋羅くん何も言わなかったし医務室にも行ってなかったみたいだから…」
「あー」


またやってしまった、と哀しげなリナリーの顔色を伺ってやっと理解した。
ラビの話を聞いたリナリーは先ほど医務室の方に行っていたのだろう。
リナリーが来たのはものの見事に医務室がある方だった。
任務から帰ってき次第ラビは絞めておこう。
少しは医務室に薬を貰いに行った方がよかっただろうか(殆ど完治したくらいに)。
やはり面倒なことになる気がしたので考える間もなく却下。
さて、どうしたものか、と少し小さなリナリーに目線を合わせた。


「脚の怪我は大したことない。切り傷程度だしな。」
「けど、ラビが骨がとか神経がとかとにかく凄く痛そうだったとか言ってたよ…」

((……あの馬鹿兎。))


心中ラビに毒づいてリナリーにニッコリと笑いかける。
何も言わなかったのは建前だった訳で、それがなくなった今アイツは敢えてリナリーに話をした。
多分、1ヶ月と半月前の仕返しに。
意外と根に持つ兎に腹パンチをお見舞いしたくなった。


「アイツが大げさに言っただけだ。」
「大げさ…?」
「ああ。実際にかなり前には完治してるし、リナリーが心配することはないな。」
「けど、兄さんもラビと同じこと言ってた。」
「まじかよ。」


俺の声は聞こえなかったのか、しゅん、と眉を寄せたリナリーはまだ若干13歳の少女だった。
あどけない面持ちに教団にいる仲間のことを人一倍心配しているからこそ慕われているのだろう。
だが、仲間でもなんでもない俺にとって関係ないことのはずだ。
リナリーはコムイとラビの差し金か、とバレない程度に小さく舌打ちをしる。
俺に何の恨みがあるのか。
少しだけ、イラッ、と来たのはラビに対してかコムイに対してか。
寧ろ、二人同時に絞めてしまいたい。


「さっきね。報告書見た時に何も書いてなかったの。」
「……ああ。」
「怪我のことも神田のことだけ…」
「……ああ。」
「報告書って秋羅くんが書いたでしょ?だから本当は…」
「リナリー。」


怪我酷かったんでしょ。
そう続けようとしたリナリーの頭を、ぽんぽん、と軽く叩いて優しく言葉を遮った。
きょとん、と目を丸くしたリナリーにニッコリと笑いかける。


「確かにあの報告書は俺が書いたことだし、俺が怪我したことも間違ってはない。」
「……やっぱりそうなんだ。」
「けど、俺の怪我はそんなに悪くないぞ?ほら…」
「あ、れ…?」


跡形もない傷を見せる。
あの二人のことだ。
リナリーに傷があったであろう詳しい場所を言ったはず。
全治3ヶ月とは知らなくても、あの傷痕を見れば誰でもかなりの大怪我だと気付くだろう。
俺が寝ている間にコムイにもそのことを話した。
だから、今まで任務が入って来なかったのだろう。
何を考えているのかまるで理解出来なかった。
小さく「傷痕もない」と呟いたリナリーに苦笑を浮かべる。


「だから大げさだって言っただろ?」
「……そっか。よかった!」


屈託のない全く曇りない純粋なリナリーの笑顔に胸が、ずきん、と小さく傷んだ。
だが、それに気付かない振りをしていつの間にか着いていた室長室の扉を開く。
序でにドアノブをぶっ壊しておいた。
勿論、今の季節寒いすきま風が入るように。


「おっそいよ、もぉ〜」
「…」
「あ、嫌、ウン。何かごめんなさい。」


リナリーの手前、黙れなんておいソレと言えるはずもなく、何も言わずに静かに(黒)笑ってみる。
何か危険を察知したのか謝るコムイにリナリーは首を傾げた。


「……コホンッ。早速で悪いけど二人には別々の任務に行ってもらうよ。」
「え、別々なの?」
「ウン。リナリーはスイスに秋羅くんはフランスね。」
「結構、遠いね。」
「リナリーはファインダーと9時17分発の電車に乗って神田くんに合流だよ。詳しいことは資料を見てね。」
「わかった。」


こくん、と頷いたリナリーにコムイは一瞬だけ兄の顔を見せるがすぐに仕事時の顔に戻した。
どんな時でも気が抜けない場所が黒の教団科学班室長の席なのだろう。
いつでも気を張って、妹にも遠慮して。
コムイはいつか疲れてしまうな、と人知れず小さく息をはいた。


「秋羅くんはこの場所に行ってほしい。」
「……?」
「ファインダーの報告によれば未確認だけどイノセンスがあるかもしれない。」
「……未確認?」
「秋羅くんはファインダーと現地集合だよ。詳しいことは資料に書いてあるから。」
「了解。」


コムイから資料を受け取り、電車までの時間を確認する。
リナリーはもう教団から出ないと間に合わない時間だった。


「秋羅くん、私は行ってくるね。」
「ん?あ、ああ。ユウがいるにしても気を付けろよ。」
「うん、いってきます!」
「いってらっしゃい。」


いってきます。
いってらっしゃい。
何時までもその言葉を相手にちゃんと返す勇気がなかった。
また、ひらひら、と手を振った俺に隣にいたコムイの苦笑が視界に移る。
リナリーは笑顔で振り返すと室長室から出ていった。


「ねぇ、秋羅くんは…」
「ん?なんだよ。」


小さく呟いたコムイにニッコリと笑みを浮かべて突き放す。
「踏み込んでくるな」と念を押すような笑みにコムイは何も言わずに口を閉じた。


「……さて俺もそろそろ用意して出るか。」
「うん、そっか。じゃあ気を付けてね。」
「……ああ。」


コムイに笑いかければ今までの雰囲気がなかったかのように言葉を紡いでくれた。
室長室を出る際に「いつまでその笑顔を続けるつもり何だい?」と問い掛けられた言葉。
それには何も言わず気付かなかった振りをして室長室を後にした。

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あきゅろす。
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