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広場にはアクマだった者たちの残骸が散らばっていた。
アクマは生きていた者が死んでしまった者への想いによって製造される。
しかも一番近しい者の願いによって。
人の皮を被った違うソイツ。
生前の記憶なんて関係ない。
レベル1のアクマはただ何も考えず与えられた仕事を実行し、殺戮を繰り返し続ける。
そして何人も殺したアクマはレベル2に進化する。
今度は自分で考える能力もあり、より人間身も増していく。
伯爵に忠実な僕<シモベ>。


ズキンッ!
「ッ、く…」


突然の痛みに、ガクンッ、と地面に膝を着いてアクマによって斬られた左足を押さえる。
べったり、と付着したアクマの血によって体の中が侵食されているような気がした。
だが、アクマのウィルスにやられればその場ですぐに消えてなくなってしまうだろう。
寄生型ではない俺のイノセンス。
それならば何故アクマのウイルスが効かないのか、何故ただ肉を抉られたような痛みだけなのか。
解らないことはあるが、今はユウとラビの安否が心配だ。
二人の強さは闘って解っているから平気だとは思うが、二人をこれ以上巻き込んではいけない。
この任務は本来でならなかった事。
俺が居なければ二人はこの任務には来ていなかったのだ。
それと同時に名も知らない俺がいることで失われた沢山の命。


((……何やってんだ。))

【死ネ!!】
「ッ!?」


戦場で考えに没頭していたのがいけなかったのか。
自分の力を過信していたのか。
アクマはもう居ないと勝手に判断したのがいけなかったのか。
気付けなかったアクマの気配に小さく舌打ちをする。
今までレベル1に戦わせて物陰に隠れていたのだろう。
意思を持ったレベル2のアクマ。

体を反転させて刀を構えようとした瞬間、奔った足の痛みにバランスを崩してしまう。
咄嗟のことに対応が遅れた俺は固く目を瞑った。


((……避けれない。))

ザシュッ!










肉を裂くような音。








痛みが来ない。
おかしい、と目を開ければ夢だと思いたいような信じられない光景が視界に広がった。
真っ赤に染まる同じ団服。
痛みに歪む切れ長の漆黒の瞳。


((なん、で…))

「ッ、ぐっ、うぁ゙…!」
「ユ、ウ…?嘘、だろ…」


血だらけのユウ。
それを嫌な笑みを浮かべて愉快に見下ろしているアクマ。
ポタポタ、と口から血が流れだして、その団服からは大量の真っ赤な赤い血が滴り落ちていく。
地面が真っ赤に染まる。


「な、んで…」
「はっ」


ユウは眉を寄せて苦しげにいつもの皮肉めいた笑みを浮かべた。


「何…やって、んだよ。助け、ね…てい、たじゃね、か…」
ドサッ!
「ユウッ!」


何故か心底安心したように笑ったユウは力尽きたように意識を失った。
倒れてくるユウを抱きかかえると自分の団服を脱いで、その上に静かに寝かせて立ち上がる。












「決めたのに。」












何も力のない俺はいらない。












「……近付けないと俺の心には踏み込ませないと。」












誰かを失いたくないから。













「人は嫌いだ。」












誰かを傷つけ気にしない。













「誰も信じたくない。」













失った後が怖いから。












「だから俺は…」














心に壁を作った。












「ホントは分かってた。分かっていたんだ…」













気持ちを隠して過ごすことの愚かさを。














「避けたって変わらない。」











あんなに真っ直ぐ向き合ってくれたのに。













「怖かった。同じように迫害されるのが。」














人はみんな同じではないのに。












「解っているのに割り切れない。忘れられない。忘れてはいけない。」













瞳から流れた一粒の涙が刀に落ちる。
静かに目を開けた秋羅の瞳の色はまるで夕日に照らされた稲穂のような綺麗な金色だった。


「分かっていた。お前たちは悪くないことを…」
【何ダ、コノ力ハ…温カイ?】
「解っていて俺は…」


秋羅が空に向かって手を広げると二本の刀は、ふわり、と意志を持ったかのように独り出に鞘から抜け出す。
宙に浮くと一際強い光を放った。


カッ!
「彼の者を浄き光にて救え!“雷神消破ーー!!”」

バァァアンッ!


消え去ったアクマ。
その直前に「伯爵様ガ、君ヲ狙ッテイル」そうアクマは口にした。
力尽きるように膝をついた秋羅の横に二本の刀も落ちる。
だが、動かない体に鞭打って秋羅はすぐにユウに近寄って必死に声をかけた。


「……何でお前が俺なんかを庇ってんだ。俺にそんな価値なんてないのに。」
「…。」
「……目を、目を開けてくれよ!!」


いくら声をかけてもぴくりとも動かないユウの顔は真っ青だった。
顔が冷たい。


「お前、には…会わないとさ。いけない奴がいんだろ…ユウッ!」


静かな広場に誰かが駆けてくる足音が聞こえる。


「はぁ、はぁ、凄い音がしたけど、はぁっ、どう、したんさ…」


光に導かれるようにアクマを倒し終わったラビが息を切らしながら駆け寄ってきた。
ふと、辺りを見回したラビの目に涙は流してないものの今にも泣きそうな秋羅と血だらけのユウが目に写る。


「……なっ、ユウ!?」
「……俺の所為だ。」
「秋羅しっかりするさ!!ユウは平気だ!今はとにかく隣町の病院に連れていかねーと。」


ユウを背負うとラビは秋羅の手を握ってそのまま槌を構えた。
伸、と小さく呟いて降りた駅から反対側の一番近くにある町の病院まで急いで向かう。
槌で病院まで行く最中、二人は何も話さずラビが経緯を聞くこともなかった。
時折、緩んでしまう秋羅の手をラビはしっかりと掴んで飛び続ける。
明かりが見えて病院に直行するとユウはすぐに手術室に連れていかれた。
手術室の前で待っていると言った秋羅にラビは顔を顰める。
足の状態に気が付いていたラビはその場で秋羅を看てもらうために医者を連れてきた。


「これは酷い…肉が抉れて骨が見えています。早く手術しないといけません。」
「…。」
「ッ、秋羅?」


何を言われても一言も話さない何時もとは違う秋羅の首筋に手刀を食らわした。
辛うじて意識を保っていたのか、すぐに気を失った秋羅にホッと胸を撫で下ろす。
手術室に連れていかれる秋羅を見つめながら、ラビは悔しげに拳を握った。


「あいつ、あんな怪我してんのに…」


どおりで槌を握る力がないはずだ。
ここまで来れたのが不思議でならないとまで言われた大怪我。
あの場で意識を失ってしまってもおかしくなかったのか。


「馬鹿さ。何でそんなに頑張んだよ…」


何で俺はあいつのことが気になってんだ、そう呟いてラビは頭を冷やすためか外に向かった。

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あきゅろす。
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