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室長室に着けばいつも通りシスコン、もといコムイが例のごとく爆睡という名のサボりを行なっていた。
寝言は専<モッパ>らリナリー。
寧ろ、リナリーonly。


「んゴー、スピー…リナリィ…」


嫁にはやらん、その男は駄目だ、と仕切りに繰り返す20代後半。
これがイギリスにある黒の教団最高責任者だと思うと哀しくなってきた。
椅子の背もたれに寄りかかって口からヨダレを垂らしながら死んだように眠っている。
ぎこぎこ、と船を漕いでいるあたり昨日も徹夜したのだろう。







((落ちてしまえ。))







冗談はさて置き室長室に着いたはいいが肝心のコムイは爆睡中。
やはり原因は最近の人員不足から来ているのだろう。
何せ、科学班にかなりの仕事が回っているようだ。
エスソシストも人数が多い訳ではない。
そんな時でも俺に今まで任務が入らなかったのはコムイなりの優しさなのだろう。
だが、俺に対して他のエクソシスト同様に気を遣わないでほしい。
俺は世界を救いたいだとか、望んでココにいるだとか、そんなもの欠片程も思ってないのだ。
ただエクソシストになってしまった以上、俺はアクマを倒す。
ただ教団に住まわして貰っている以上、迷惑にならない程度に仕事をする。




ただ、それだけ。




ただ、それだけの為にココにいる。




恩を仇で返すつもりはない。
だが、教団内の奴らにとってどうやら俺は異質な存在のようだ。
普通では見えないものが視えることが気持ち悪いようで所狭しと噂している。
ユウやラビ、あの場にいたコムイたちの態度が変わらないことがより一層俺を苦しめた。
あれだけ疑いの目を向けられている俺を長期任務に付かせないのは予言の所為だろう。
時の破壊者アレンの導きの光なんて大層な予言をされたもんだ、と大きなため息をはく。


「……はぁ、」


予言は予言。
だが、ヘブラスカの予言はよく当たるのだ。
面倒なことになってしまった、とまたまた大きなため息をつく。
ふと、視界の端に移った大量の資料に目を向ければ昨日より部屋が狭いことに気が付いた。
コムイの周りや床には色んな資料が散乱している。
確か昨日来た時は綺麗だった。
どうやれば綺麗だった部屋が一日でこんなにも汚なくなるのだろうか。
コムイが苛立って面倒になってそのまま勢いに任せて資料をぶちまけたとしか思えない。
そのまま視線を左に移せば今まで気付かなかったが、見慣れた二人組がソファーに座っていた。


「はよ。」
「…ああ。」
「おはようさん!」


不機嫌そうに答えたユウとは対照的に朝早くから笑顔のラビ。
室長室のソファーに座っているのを考えると二人ともコムイに呼び出されたに違いない。
二人はいつから待っているのだろうか。
呼び出した張本人が爆睡中では次の話に進めない。
生憎とココにはいつも起しているリーバーもリナリーも仕事をしているのかいなかった。
仕方ない、と大きく息を吐いてコムイに近づいていく。
疲れているのは解っているが、俺を呼んだ直ぐに寝てしまうのは問題だろう。


((あ、やってみるか…))


ふと、頭を過った考えにニヤリと口の端を上げて誰にも気付かれないように笑う(黒)。
コムイに近づくと耳元で小さく呟いた。


「あ、ラビがリナリーを…」
ガシャコンッ
「!」


焦ったような声色だったのがいけなかったのか、今までの爆睡が嘘のように一瞬で起きたコムイはヘルメットとドリルを装着。
キランと光る眼鏡の奧。
何処から出したんだ、と暢気にコムイを見つめていたが。


「リナリィィーー!!」
「!?」


お馴染みの叫び声をあげたコムイにかなりの恐怖を覚えた。
実物はやっぱり凄かった、と小さく感想を述べながら少しだけ後ろに下がる。
やはりリナリーが絡んだコムイは豹変<ヒョウヘン>し、冷静沈着?が嘘のような状態に。
黒いオーラは確実にその標的に向けて放たれていた。
キャラが変わっているのはこの際気にしてはいけないポイントのようだ。


「…オイ、そこの兎。僕の可愛いリナリーになんてことしてくれたんだい?」
「……へ?」


当然ながらラビは関係ない。
ただこの前の廊下での仕返しにラビの名前を借りただけ。
何のことか分からずに首を傾げているラビに小さく御愁傷様と合掌した。
ユウはコムイの只ならぬ気配を感じ取ったのか、ソファーから離れて俺の横に。
その間にもコムイはジリジリとラビに近づいていく。


「……あーなんのことさ?」
「言い逃れはできないよ?」
「え゙…ちょ、」

ギュィィンッ
「ま…イ゙、イ゙ヤ゙ァ助けてさーー!!」


何とも言えない事態に陥った。
我関せずのユウの横でコムイに追い回されるラビの生還を小さく祈ってみた。

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あきゅろす。
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