2 「長ェさ、この廊下〜いつになったら、次の扉があんだぁ?」 「ッスねι」 かなり時間をかけて進むも、一向に扉もないし、長い長い廊下が延々と続くだけ。 廊下の先は真っ暗でなにも見えない。 そんな中で突然、一番後ろを歩いていた秋羅が「カクン」と膝を着いた。 「…あ、あれ?」 体が「カタカタ」と震えて止まらない、力が入らず足も動かない。 どうしてこんなにも胸が苦しいのか。 まるで心に「ぽっかり」穴が開いて時が止まってしまったかのようだった。 分かるのはこれが哀しみだということ。 ふと、頭を過ったのは悲しげなユウの顔。 それと同時に警鐘をならす心臓。 どくんっ! 「ユ…、ウ……?」 まさか、あり得ない。 自分の意志とか関係なしに、自然と流れてしまう涙だけが周りの時間を感じさせる。 信じたくない。 嫌、考えてはいけない。 ((……みんなに不安は与えてはいけない)) 幸い、自分がここにいるとはまだ誰も気が付いてない。 「カタカタ」と震える肩を落ち着かせるために「ぎゅっ」と握る。 涙は止めた。 だが、頭ではわかっていても震えは止まらないようでまだ立つことが出来ない。 それでも心を落ち着かせろ。 今はみんなで教団に帰ることだけを考えるんだ。 「あれ?秋羅…?」 ((!!…早く。)) アレンが気が付いて片膝を着くと秋羅の様子に不安げに問い掛ける。 「どうしたんですか?」 ((…早く。)) いつものように「大丈夫」と言いたくても口も動かない。 アレンが秋羅の肩に触れると「カタカタ」と微かに震えていることに気が付いた。 「!…秋羅、どうしたんですか!?」 慌てたアレンの様子に歩いていたみんなも足を止めて振り向く。 秋羅は一度だけ強く目を瞑ると深く息を吐いた。 さっきより大分、落ち着いた。 不安げに眉を寄せたアレンに秋羅は顔をあげると「カラカラ」と笑って誤魔化した。 ああ、よかった。 間に合って。 「ははっ、どうしたアレン。そんなに慌てて。」 「え?」 「けろり」と何でもないように笑った秋羅にみんなはアレンの勘違いだと思ったようで再び歩きだす。 「何だよアレン、脅かすなよ〜、驚いたじゃんかぁ。」 「そうッスよ。」 「早く行くである。」 ((大丈夫、大丈夫だ。)) 秋羅は震える足をなんとか動かして、アレンの横を何でもないように通りすぎる。 だが、アレンは秋羅の腕を掴んで止めた。 「何を隠してるんですか、僕は誤魔化せませんよ。」 「…?」 秋羅は「何のことだ」といった風に首を傾げ、表情はそのままにアレンを見た。 何か言わないとアレンは納得しそうもない。 「んー…実はさっきさ、何もないとこで詰まづいたんだよ。流石に恥ずかしくて言えないだろ?」 秋羅はやれやれと深いため息をはいて「ニッ」と笑い自分の口に人差し指を立てた。 「内緒だぞー?……モヤシ。」 「アレンです。」 「あれ?そうだったっけ?」 「なっ、秋羅ッ!!」 走りだした秋羅をアレンが慌てて追い掛けたが、すでに遅し。 秋羅はさっさとリナリーの隣をキープして笑顔で話をしている。 「秋羅くん、本当はさっきどうしたの?」 「んー…、内緒。」 「もうっ、すぐそうやって笑って誤魔化すんだから!!」 邪魔することは出来そうない。 だけど、先程の震えは尋常ではなかったし、目の下には微かに涙の後もあった。 今はいつも通りで、少し前までもこれといって変わった様子もなかったはずなのに… 「(じゃあ、何があった…?)」 ピシッ 「(!…音?)」 アレンは考えを中断し歩みを止めて後ろを振り向いた。 「どうしたである?アレン。」 「なんか今、うしろから音がしたような…」 みんなも振りかえる。 「音?どんな?」 「何かが割れるような音で…」 ピシッ 「す」 みんなとアレンとの間に大きな亀裂が走った。 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 心なしか、地鳴りのような低い音が聞こえているのは気のせいではない。 秋羅が「ポリポリ」と頬をかきながら口を開いたがすでにもう遅かった。 「あー…、早くはな…」 ドンッ! 「れ、ろ…」 アレンのすぐ下の地面が盛り上がって、アレンだけが人形のように空中に吹っ飛ぶ。 「「「わああ、何!?」」」 「はぁ〜、遅かったか…」 「冷静に言ってる場合じゃないさッ!」 今まで何もなかったのが嘘のようにどんどん床がなくなっていく。 一寸先は闇。 まるで不安な秋羅の心のようだった。 大丈夫。 みんなで帰るんだ。 そう言い聞かせて。 [前へ][次へ] [戻る] |