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封印していた記憶。
忘れてはいけないと解っていても消え去りたかった過去。
曖昧だった記憶の欠片が徐々に思い起こされていく。
目の前の光景が何も出来なかったあの時の自分と重なって、身を呈してまで守ってくれた兄が幻影として現れた。
苦しい。
悲しい。


「……兄、さん…っ」


突然、空から船に向かって無数の攻撃が落とされた。
それにより多くの船員たちは命を落としていく。
まるであの時と同じ。

あの時って何?


「……や、めろ…よ…」


目の前で抵抗する間もなく次々と貫かれていく船員たち。

私は何も出来なかった。



「……やめ、て…」


記憶にしまった過去のこと。

消したのは私。



ズキンッ

「!」


脳が記憶を堀だし始める。
悲しい。
怖い。
私から全てを奪わないで――…


「……くっ、はぁっ、はぁっ…これ以上、殺すな…」


頭が痛い。
心が苦しい。
辛い。
痛い。
助けて。
色んなものたちの感情が頭の中にダイレクトに止まることなく入ってくる。
自分の感情と入り交じる。

全ては私の所為。



「……やめ、て…やめろーーっ!!」
カッ!


強い光が辺りを支配した。
秋羅の光は今までとは違い綺麗な太陽のような金色。
徐々にその光の強さは秋羅の周りだけでなく、船全体を包み込んでいった。

感じる。
みんなの気持ちが。
みんなの想いが。
辛い、と。
悲しい、と。
まだ死にたくなかった、と。
ミランダのイノセンスにより、傷痕はなくなっていくだろう。
だが、痛みは。
アクマに貫かれたその一瞬の身体の痛みは取りのぞくことは出来ない。
一度死んだのに回復して、また同じ痛みを背負って。
想いだけが取りのこられる。
それでもアニタのため、エクソシストのために身を挺して守ってくれる船員たち。


「……くそっ、なら…俺が、痛みを…引…き受け、る…」


金色の光が強くなる。
身体をあり得ない程の痛みが貫いた。


ズキンッ!

「あ゙ぁ゙あ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙!!」


頭が割れるように痛い。
だが、意識は飛ばさない。
飛ばせないんだ。
少しでもみんなの痛みを俺が引き受けなければいけない。
それしか出来ない。


ズキンッ!

「ッ、くそっ!」


まだ死ぬわけにはいかなかった。
まだ止まる訳にはいかなかった。
それなのに。


「……まだ、俺…には、はぁっ…やる、ことが、あ…たんだ…」


歩みを止めたのは自分。
あの時諦めたのも自分。


「全て、が…終わ、るその時…までに…決着…を、つけるつ…もりだ…た…」


秋羅が言葉を紡げば紡ぐほど金色の光は辺りを包む。
船員たちやラビたちの苦しみはいつしか安らぎへと変わっていた。


「ッ、はぁ…はぁっ、くっ…兄さ、ん…」
ドサッ


うつ伏せに倒れた秋羅は何かを求めるように手を伸ばす。

リナリー。
ラビ。
アレン。
ユウ――…


「……誰、にも…死、んで、ほしく…ない…ん、だ…」


何も出来ない自分がここにいる価値なんてない。
何も出来ずに見ていることしか出来ない俺はいらない。
解っていたのに解っていなかった。
龍凰がいなければ俺は結局何も出来ないただの人。


「……消え、る…多く、の命…の灯、火…が…っ!!」


強くありたいと願った。
迷いを乗り越える強さを。
強くなりたいと思った。
みんなを守る力を。
それでも願うだけでは成しえないことがあった。


「…ハハハ、私…何、や…てる、のよ…」


いらない。
こんな身体なんて私はいらなかったのに。


「……力が、守れる…だけ、の力が…ほ、し…い…か、た…」
「ッ!!」
「ごめ、ね…」
「秋羅ッ!!」
「…?」
「秋羅ッ!!」


薄れる意識の中でこちらに走ってくるラビを見た。
伝えたいことがあったのに徐々に瞼は落ちていって、伸ばした手は何かを掴むことはなかった。
ごめん。
ラビ――…

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あきゅろす。
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