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意識が浮上する。
まだ重たい瞼を押し上げると視界いっぱいに広がった大きな扉。
俺は何をしていた?
どうしてこんな場所に?
ただそれだけが頭を占めて消えていく。
見たことない場所。
知らない風景。
俺は。
俺は今まで――…


「な、んで…」


確かにあの時。
小さく呟いて掌を見つめる。
透けている手。
浮いている体。
期待した自分が馬鹿だった。
今はただ笑うしかなかった。












「ハハハ、ホント馬鹿だな、俺は…」











何を思った?












「俺はあいつに胸を貫かれて…」











何を期待した?











「確かに死んだ…!」










体温なんて感じないのに。











「ッ、死んでしまったら、意味がない…死んでしまったら、守れないのに…っ!!」









今さら気付いたって遅かった。
心の何処かで死を望んでいた自分にあの時気付いて。
それでも中途半端な俺の気持ち。
俺はまだお前らと一緒にいたいと無意識の中で願っていた。











「俺は…俺自身が決めたんじゃないのかよ…守るって足手まといにならないって…だから、強く在ろうと決めた。」










それなのにもう誰の瞳にも写らない。
もう誰にも声が届かない。
死に場所を探していたのは過去とのことを忘れられないから。
それでも俺は望んでしまった。
未来を。

悔しい。
苦しい。


「何が導きの光だ。俺は何一つ出来ていない。何一つ守れやしなかった…っ!!」


思いが溢れる。
止まらない。


「もう二度と誰かに会うことも叶わない…っ」


何で今さら気付く。


「俺はあの時…っ!!」


何も出来ずに殺された。
ノアに。
ティキ・ミックに。


「……けど、俺を殺したのは強くなかった俺自身だ…」


止められない想い。
溢れ出る気持ち。
歯を食い縛って握り締めていた拳でそのまま扉を「ガンッ」と殴りつけた。
乾いた笑いしか出てこない。


「ハハ…何も感じない、か…」


痛みも何もかも感じない拳。
握った手には傷一つつかない。
痛む心は気のせいか。
もう涙も出てこなかった。


コツ…
「!…これ、は…」


近づいてくる足音。
見知った気配。
暗がりの中に蠢く白髪。
乱れた心を落ち着かせるために一度だけ瞳を閉じて、歩いてくる人物を見つめた。


「……やっぱ生きてたな、アレン…」


アレンは大丈夫だから。
そうラビに告げた言葉。

江戸にみんなが集まる。
そうユウに告げた言葉。


「……アレン・ウォーカー。時の破壊者と詠まれた者。」


強い曇り無い瞳を持ち、自分の信念を貫くアレン。
だが、その瞳は虚ろでただ足の向く方へ目的もなく歩いている。
左腕を失ったアレン。
右腕と胸には怪我の具合が分かる程の包帯が巻かれていた。
イノセンスは今。


「アレンは今、生きている目的をも失っている…」


生きていれば何かが出来る。
まだお前には出来ることがあるだろう?
見失うな。
お前の想いと信念を。


「その扉は押しても開かんぞ。」
「!」


二人がほぼ同時に声のしたほうへと顔を向ける。
すると、少し離れた暗がりに鋭く見据えた瞳が特徴的な男が座っていた。


「ここに何か用か?」
「……どうして開かないんですか。」
「その扉の中にはここの守り神がいて、ボクの曾祖父が内から封印しているんだ。」
「……封印、か。」


男の顔は暗い所為でよく分からないが、その雰囲気は落ち着いた感じに感じる。
悔しげなアレンの様子にその男は真っ直ぐとアレンだけを静かに見つめる。


「ここに用があったんじゃないのか?」
「…っ」


アレンは虚ろに扉を見つめる。
それはまるでスーマンを助けられなかった自分を追い詰めているようで。
ノアの前で何も出来ずにイノセンスを失ったことを悔やんでいるようだった。

生きているアレン。
俺はただ見ているだけの傍観者。

自分が一番望まない形。
やはり変わろうといくら思っても結局俺は変わることが出来なかった。
全部が全部、中途半端。
男の質問にアレンは小さく呟いた。


「別に…ただ進んできただけだから…この扉…どうにかして開けられないんですか…」
「開けられない。戻ったらどうだ?そんなところ進んでどうする。」
「ただ進む。立ち止まりたくないんだ。」


何も出来ない自分がもどかしくて、何かしていないと落ち着かなくて。
その気持ちは痛いほどわかる。
だが、アレンは生きている。
たった一つだけの違いなのにこんなにも大きくて、自分ではどうにも出来ない大きな違い。


((……俺は今まで龍凰に頼りすぎた…))
「右腕もないのにか?」
「「!」」


アレンが男を睨んだ瞬間、秋羅は一瞬だけ目を見開くと静かに顔を伏せる。
龍凰は主の元に還った。
生きていたとしても俺が戦場に出れることはないのだ。
ファインダーとして戦場に出てもアクマと戦うことは出来ない。
下手をすれば足手まといになってしまう。
どちらにせよ何も出来ない俺。
何で存在しているのだろう。
何も出来ないのに。


「別に文句をつけるつもりはない。好奇心から聞いているだけだ。」
「……あなた誰ですか?」


失礼な男の物言いに今まで静かに答えていたアレンの声には怒気が含まれていた。


「バク・チャン…」


男の正体は黒の教団・アジア区支部、支部長、バク・チャン。
バクはアレンに言った。


「ここの事務員にならないか?これからはサポートに回る別の道を探す。エクソシスト以外にも何か出来ることはある。そうすれば神もキミを咎めだりはしない。」
「神?」


アレンの瞳にはいつもの決意がこもった曇り無い光や力強さもなく、ただただ静かに涙を流す。


「そんな事どうだっていい。」


アレンは怪我をしているほうの手で扉をバンバンと殴っていく。


「僕の意志で誓いを立てた。アクマを壊すことを自分に…っ!!」
「アレン…」


無表情に拳を握りしめる秋羅。
手は切れてしまう程に握り締められ爪が肌に食い込んでいく。
ただ手に痛みはない。
それでも心は苦しかった。
この痛みがアレンの心といまだにシンクロしている為なのか。
それとも俺自信の心のか分からない。


「共に戦うことを仲間に。救うことをこの世界に。死ぬまで歩き続けることを父に…誓ったんだ!!」


アレンが父と呼ぶ者。
マナ・ウォーカーはアレンを拾い育てた人だった。


「開けよ…ちくしょお…っ」


扉には何度も叩きつけた血の後がべっとりと付着し、それはアレンの右手の包帯から出た血だった。
アレンは力なく膝を付く。


「僕が生きていられるのは、この道だけなんだ。」


アレンの決意に満ちた静かな声色にバグは「ふぅ」と息をはいた。


「わかったよ。アレン・ウォーカー。キミのイノセンスは死んではいない。」


強い願いは人を強くする。


「キミのイノセンスは復活することが出来る。」


強い想いは時に奇跡を起す。
イノセンスは人の心に応える存在で。
いつもお前たちと共に在るから。

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あきゅろす。
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