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俺は湖に投げ出されたアレンに必死に手を伸ばす。
血だらけの腕。
「ボロボロ」の服。
いつも真っ直ぐな瞳は哀しみに歪んでいた。
そこまでさせたスーマンとの出来事。
アレンは湖に落下していく。
必死に伸ばした手は空を切ってアレンは湖に落ちた。


「くそっ」
バシャァンッ!


俺は今から少し遡る数分前にココに着いた。
アレンの居場所がどうにも掴めなかった俺はスーマンが村を破壊することに気が付いた。
先に村人の避難を優先したのだ。
声掛けと避難で異変に気が付いた村人が急いで村を離れていく。


【だまれぇええぇえええぇ!!】
「!」


恨みの籠もった叫び。
何かに支配されたような言葉。
だが、何故か悲しくなる叫び声に胸が苦しくなった。
激しく山に身体をぶつけたスーマンから何かが落下する。
よく見れば見知った団服が地上に向かって落下していた。

白髪の少年アレン。

イノセンスを発動して地面にぶつかる前にアレンの所に向かう。
幸い落ちたところが湖でよかったが地面だとしたら只ではすまなかった。
すぐに俺も湖に飛び込んでアレンを掴んで引き上げる。
背中を擦った。


「……ゴホッ、なんで秋羅が…それにさっき、は…?」
「話すのは後だ。」


今はそんな場合ではない。
いくら声をかけたからとは言っても、残っている村人がまだいるかもしれないのだ。
村を攻撃し始めたスーマン。
まるでアクマのように。

哀し過ぎる。
ただスーマンはまだ生きたいと願っただけなのに。


「今はスーマンを止めるぞ。」
「ッ、駄目だ!!」
「!」


スーマンを見上げている秋羅の肩を掴んで振り向かせる。
驚きに目を丸くした秋羅とアレンは目線を合わせて瞳を見据えた。


「秋羅は船に戻って。ココは僕に任せてください。」


あなたの体はもう限界だ。
これ以上戦えばいつ倒れてもおかしくない。
辛いはずなのに。
何で笑うんだ。
何時だって僕らを止めるのに。
あなたを止めようとする僕らを簡単に振り払ってしまう。
「ニッ」と口の端を上げた秋羅に僕は嫌な予感がした。

これから僕がやろうとしてることに気が付いてる?


「ッ、あなたは船に戻ってください…っ!!」


秋羅は首を縦には振らなかった。
僕はスーマンを止めるためにイノセンスを開放する。
けど、秋羅がイノセンスを開放したら身体が保たないはず。
無理してほしくないのに。
僕の心情なんか知ってるくせに鼻で笑うと口の端を上げた。


「お前バカだな。」
「なっ!」
「大馬鹿だよ。だからひょろいモヤシって言われんだ。」
「ひょろいは言われてません!!」


アレンの気持ちも解ってる。
だが、ココで引けば俺は一生後悔することになるだろう。
それに俺はリナリーと約束したんだ。
生きてリナリーのところに帰る、と。


「何のための仲間だ。それじゃ俺が来た意味がない。それに…あの時だって言っただろ。」
「それとこれとは話が別です!!秋羅は…」
「あーあーあー俺は何も聞こえないーー!!」
「ムッ、大人げないですよ!!」
「まだ子供だ。それに…」


黙り込んだ秋羅。
僕はもう何も言えなかった。
いつも以上に無表情に僕を見据える瞳の奥。
いつでも僕らを黙らしてしまう表情の中に不安を感じた。
秋羅は本気だ。
けど、諦めてもいない。


「これ以上、何を言っても無駄だから。」


真っ直ぐな瞳。
僕は気持ちを隠すようにただ何も言えず空へと視線を反らした。
スーマンはもうすでに村の近くまで進行していて。
もう話している暇も迷っている暇もない。


「(秋羅を巻き込みたくなかったのに…)」


これ以上僕が何を言っても僕が何をしても絶対に帰らないのは分かった。
ホントの馬鹿は貴女だ。
けど、あなたがいるだけで僕はいつも以上に頑張れる。
だから誰も犠牲にはしない。


「わかりました。」


苦笑を浮かべた秋羅ともう一度だけ視線を合わせてスーマンを見据えた。


「発動最大限…開放!!」

((行くぞ、龍凰…))


二人のイノセンスの十字架が光だす。
対アクマ武器がスーマンを包み込んだ。


「うぉぉおおおぉおおぉぉ」


合わさった二人の力は大きく、今までの倍の力になった。
だが、突然スーマンの力が強まりイノセンスが押し戻される。


((まだ、まだだ…!))


行かせない。
生きてほしい。
罪を重ねてほしくない。
スーマンの思いはイノセンスから感じ取った。


「これ以上、お前に…誰か、を…殺させるか!!」


三人の攻防は続く。
それが短い時間なのか長い時間なのか二人には分からない。
ただ必死にスーマンを食い止めていた。


「くっ…くっそ。」


スーマンの力がまた強くなる。
まるでスーマン自身に罪を重ねさせるため、人を殺させる為に。
その強大な力によりアレンは後ろに押し戻された。
秋羅は一瞬痛みに顔を歪めるとイノセンスに力を込めてスーマンを押し返す。
「ハッ」としたアレンはすぐ後ろにいる秋羅の存在を強く感じた。


「……助けんだろ?」
「!」


ただ一言だけ。
それでも僕は支えられた。
顔は見えないけどいつものように笑ってる。
今だって辛いはずで。
身体も本調子じゃないくせに強がって。
挙げ句の果てに無茶ばかりして。

全く、あなたは教団の問題児だ。

秋羅を巻き込んだのは僕なのに、助けられて励まされて今だって支えられてる。
無理をしないでって言ったってあなたは無理をする。
あなたを嫌うファインダーにだって心配をかけないように振るまって。
厳しいことを言うのは全部が全部、僕たちのため。
一定以上、踏み込ませないようにしてるけどいつも僕らを優先してる。
僕らはそんな秋羅が好きで心から笑ってほしいと思ってる。
だから、スーマンを助けたらまずは一発殴らせて貰うよ。


「(僕は振り回されてばっかりだ…)」


アレンは秋羅の言葉に頷くと一歩ずつ確実に前へと歩きだした。


「行かせるもんか…死なせるもんか!!」


必ず助ける。


「(助けるんだ!!)」


スーマンのために。
秋羅のために。

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