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空にはいつの間にか大きな月が出ていた。
俺たちは街に着いてクロスの行方を探すためにまずは「バラバラ」に聞き込みを開始。
少したつとアレンとリナリーが有力な情報をつかんできた。


「妓楼の女主人?」
「饅頭屋の店主が言うには最近その女主人にできた恋人がクロス元帥なんだって。」
「へぇ〜」
「なんて師匠らしい情報…」


小さく「ボソッ」と溢したアレンの言葉に思わず俺は苦笑を浮かべる。
ふ、と見上げれば目の前には煌びやかな大きな店。
「シャンシャン」と鈴の音が辺りに響いていてとても幻想的な雰囲気を持っていた。


「ついにクロス元帥を見つけたんか…長かった…てか遠かった…見つけられると思わなかった。」


店から視線を外して斜め45°くらいを見やる。
「ココにはクロスはいない。」そう思いつつの行動だった。
別に言ってもいいが、ラビたちの雰囲気からして言いづらい。
寧ろ、言った方がアレンにとっては有難い情報だろう。
だが、それでは面白くない。
横を見ればラビたちが騒いでいる隣でやはりアレンはかなりの勢いで沈んでいた。
「見つけてしまった…」と言わんばかりの絶望ぶりに思わず清々しいほどの笑みを向ける。
アレンの肩に「そっ」と手を置いて「ぐっ」と親指を立てた。
勿論「どんまい!」の意味を込めて。


「!」


思いの外、ダメージ大だったようで更に追い打ちをかけた。
頭の上に重りが乗ってるかのように哀愁を漂わせながら、地面に「の」の字を書いている。
そんなアレンは放っておいて「中に入ろう」ということになり店の入り口に進むラビ。
遅れて復活したアレンも歩きだした。
すると、タイミングよく中から人が顔を出した。


〔待てコラ。ウチは一見さんとガキはお断りだよ。〕←中国語


「ドンッ」と出てきた筋肉ムキムキの怖面坊主頭。
「ボキボキ」と手をならしていかにも強そうな也にしか見えない。
ラビとアレンは思わず顔を引きつらせた。


「(デ、デカイ…!!)」
「(えっ、ウソ胸がある!?)」
「何、言ってんだラビ。どう見たって女性だろ?失礼にも程があるぞ。」
「……え゙?」


声に出していたかと心配になったラビが秋羅を見れば当の本人は笑っているだけ。
慌てて怖面坊主頭を見れば別に変わった様子はない。


「(心読まれたさーー!!)」


慌てるラビの様子に「ふ」と口元を緩めた(黒)秋羅には目もくれず怖面坊主頭はアレンとラビに近づいていく。
すると、アレンとラビの顔は一気に真っ青になる。
「助けて」と言わんばかりに視線を向けた二人へ秋羅はただ笑みだけを返した。
とりあえず謝ろうとアレンは秋羅から視線を移す。


「ご、ごめんなさい。何かよくわかんないけどごめんなさい。」
「え、うそだ!やっぱ女!?」
「……おい、兎。俺の話聞いてなかったのか?」


その女性はアレンとラビを「ひょーい」と軽く持ち上げる。
慌てて二人は秋羅を見たが、素敵笑顔+額の上の怒りマークに気付いて必死に助けを求めた。


「「わーっリナリー!!」」

〔仲間を放して!私達は客じゃないわ!〕←中国語


必死に詰め寄った勇敢なリナリーに秋羅は密かに拍手を送ってみた。
すると、女の人はアレンに近づいて小声で呟く。


「裏口へお回りください。こちらからは主の部屋に通じておりませんので。」


一度言葉を切る女性。
その舌には教団のサポーターの印の十字架が刻まれていた。
すぐに何事もなかったかのようにアレンとラビを下ろした女性は裏口へと歩きだす。
みんなの後から少し遅れて歩いていた秋羅のところにアレンが歩調を合わせた。
「何か用か。」と秋羅はアレンに視線を移した。


「秋羅……あの人が教団関係者って知ってましたね?」
「……さあ?」
「とぼけたって駄目ですよ。」







「ちッ…」
「(舌打ちした!!)」


じと目で見てくるアレンに大きく息を吐き出して答えてやる。
対したことではないが、やはり説明するのは面倒なのだ。


「質問の答えはYES。雰囲気で分かったんだけどな。あの人、殺気立ってなかったんだよ。」
「(あれで…?)」
「ま、言わなかった一番の理由はさ…」


「なんですか?」
















「面白そうだったからに決まってんだろ?」
「あ、はははは…は…」


悪びれもせずに「さらっ」と言った秋羅にアレンは頬を引きつらせてただ笑うことしか出来なかった。


「こちらです。」
「いらっしゃいませエクソシスト様方。ここの店主のアニタと申します。」


通された間にいたのは美女。
流石クロスが愛人にするだけはある女性だった。
その佇まいも煌びやかな衣装を纏っても着負けしない華やかさ。
そして女主人。
みんなが見惚れている中でラビはまたしてもストライク。
ラビのストライクの範囲は何処までだろうか。
やはり年上が好きなのだろうか。
そう見せ掛けて実はリナリーの線もあるかもしれない。
と、秋羅は頭の中で一人自問自答を繰り返していた。


「さっそくで申し訳ないのですが、クロス様はもうここにはおりません。」

「「「……え?」」」


突然のことに全員破顔。
脳内トリップに入っていた秋羅は意識を戻すとみんなの様子に一人苦笑を浮かべた。


「旅立たれました。八日ほど前に…そして…」



「今…なんて…?」


絞りだすように続いた言葉に全員が言葉を失った。
リナリーの言葉にアニタは少しの沈黙のあと必死に同じ言葉を繰り返す。


「八日前。旅立たれたクロス様を乗せた船が海上にて撃沈されたと申したのです。」
「確証はおありか?」
「救援信号を受けた他の船が救助に向かいました。ですが船も人もどこにも見当たらず、そこには不気味な残骸と毒の海が広がっていたそうです。」


抑揚のないアニタの声に冗談ではない真実が明るみになっていく。
みんなが絶望に打ち拉がれた。
誰一人として何かを口にしようとはしない。
そんな中でアレンだけは意思の籠もった強い瞳でアニタを見つめ反した。


「師匠はどこへ向かったんですか?沈んだ船の行き先はどこだったんですか?」


みんな驚いてアレンの方へ視線を上げる。
すると、今まで感情がないかのような表情で話し続けていたアニタが初めて目を見開いた。


「僕の師匠はそんなことで沈みませんよ。」


曇り一つないアレンの瞳。
壁に寄りかかって話を聞いていた秋羅は一歩前に出る。
アレンの肩に手を置くと安心させるように「ぎゅっ」と強く肩を握った。


「……元帥は生きてるよ。」
「!」


ハッキリとしたよく透る声。
思うではなく確証めいた言葉にアレンは驚いて秋羅を見つめる。
「なんだ?」と首を傾げた秋羅にアレンは首を振って「ありがとうございます」と小さく微笑んだ。


「………そう思う?」


アニタの目からは涙が零れた。
今までその事実を信じたくなかったのだろう。
だからこそ、感情を押し殺すようにして話をしていた。
そんな雰囲気の中でラビとブックマンだけは怪訝そうに何かを記録している。
気が付いた秋羅はただ何も言わずに気が付かないふりをするだけだった。


「マホジャ、私の船を出しておくれ。」


アニタが先ほどここまで案内してくれた女性に声をかける。
マホジャという名のようだ。


「私は母の代より教団のサポーターとして、陰ながらお力添えしてまいりました。クロス様を追われるなら、我らがご案内しましょう。」


アニタは「スッ」と椅子から立ち上がり優雅に一礼する。
ココまで来たら後戻りをする必要はない。
前に進むそれだけなのだ。


「行き先は日本。江戸でございます。」
「江戸、か…」


誰にも聞こえないような声で呟いた秋羅は悲しげに目を細める。
思っていたよりも早かった江戸への道のり。
俺が思っていた通りにアレンとラビたちブックマンと旅をして。
俺の噂を知っていたのに態度を変えなかった数少ない人間は先に逝ってしまった。

俺がもっと警戒していれば。
俺がもっと力を持ってれば。

今更後悔したって遅いのは本当は分かってるんだ。
力がないと嘆いたって意味がないのは分かってるんだ。
ただ救えた命と救えなかった命。
俺は誰に言われても「俺の意思を貫く」と決めたあの日から変わっただろうか。

救いたい命。
救いたい奴ら。

誰にも悟らせない。
まだ気付かれるわけにはいかない俺の本当の願い。
それをお前らが知れば多分、止められるって解ってるから。

ユウに告げたキーワード。

江戸にはみんなが集まってそこでは何かが起こる場所。


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