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5 side.アレン


ティムの案内でミランダさんの家に着くとまずはさっき遭った出来事をリナリーに話しておく。
アクマが関わっている時点で原因のイノセンスに今のところ接点があるのはミランダさんだけ。
それにアクマがあの場所に居たのを考えるとミランダさんは狙われている。
とにかくリナリーとミランダさんに変わったことはなかったからよかった。


「アクマが退いた?」


家に着くと半強制的に僕を無理やりを椅子に座らせてリナリーが怪我の手当てを始めた。


「ちょっと様子が変でした。僕らのこと殺す気満々だったのに。」


それに苦しそうに胸を押さえていた秋羅の行動。
表情は辛そうに見えなかったけど、秋羅なら表情を出さないことなんて簡単にやって除けると思った。
まだ教団に来て日は浅いけど僕だって毎日秋羅を見てきたから解る。


「一応この辺り見回しましたけど…」


ふと、秋羅を見れば窓の縁に腰掛けて難しい顔で空を見上げてる。
何を考えてるんだろう。
その横顔からは何も読み取れなかった。


「でもよかった。秋羅くんがいたとしてもレベル2をあんなに相手するのはまだアレンくんには危険だもの。」


7体いたうちの3体を秋羅はほぼ瞬殺で倒した。
少し前にリーバーさんに聞いたけど秋羅は殆どの任務で傷を負うことなく帰ってくる。
しかもどんなに困難な任務も簡単にこなしてくるなんて。
その時は少しだけ疑ったけど、今回の戦いを見て強ち間違ってないって気付かされた。


「秋羅って強かったんですね。七体いたうちの三体を殆ど一瞬で倒したんですよ。」


ずっと外を見ているから今、どんな表情をしてるかよく分からなかった。
けど、考えに集中しているらしくこっちの話は聞こえてない。


「あれ?アレンくんって秋羅くんと任務行ったことあったよね?」
「え、ああ。あの時は僕が足を引っ張ってましたから。それに僕自身、余裕なかったですし。」


余裕がなかったのもあるけど、始めの頃は秋羅を毛嫌いしてたのもあると思う。
確かに戦いの身のこなしとか、アクマの動きを読んだり先を視たりと凄かった。
今なら解る。
秋羅の洗礼された無駄のない動きとか考えは全部、僕らの為だったって。


「秋羅って、解りにくい性格してますよね。」
「ふふ、やっぱりそう思うよね。うん、もういいよ。」
「ありがとうございます。」


治療が終わった僕は服を着ながら秋羅から視線を外す。
さっきから気になっていたミランダさんのことをリナリーに聞くことにした。


「何してんですか、ミランダさん。」


僕が問い掛ければリナリーは困ったように眉を寄せて同じようにミランダさんを見やる。
ミランダさんは僕たちが来た時からずっと時計の傍から動かなかった。
仕舞いには何処からかハンカチを取り出して時計を磨いている。


「私達とアクマのこと説明してからずっと…」
「私ホントに何も知らないのよ…この街が勝手におかしくなったの。何で私が狙われなくちゃいけないの…?私が何したってのよぉぉ〜もう嫌、もう何もかもイヤぁぁ〜」
「く、暗い…」
「ずっとああなの。」


ミランダは時計を磨きながら「ブツブツブツブツ」と文句を言い続けてる。
その余りの暗さに全身に鳥肌が立った。
すると、小さなため息が聞こえて視線を移せば秋羅がミランダさんを見ている。
けど、すぐに視線を外に戻した。
僕は恐る恐るミランダに近づく。


「ミ、ミランダさん…」
「私…は何もできないの!あなた達すごい力もった人達なんでしょ!?だったらあなた達が早くこの街を助けてよ。」
「ミラ…!」
「待て、アレン。」


声を掛けようとミランダさんに近づいた瞬間、いつのまに移動したのか秋羅が僕の腕を掴んだ。
目を丸くして振り向いた僕に秋羅は何も言わず掴んでいた腕をとく。
「秋羅…?」と掛けた声に秋羅はやはり何も言わなかった。
けど、掛けられた言葉は何よりも怒気が含まれていて。
表情は無表情なのに、その漆黒の瞳には只の黒が映るだけで光りも闇も何も映してはいなかった。
泣いているミランダさん。
怒っている秋羅。
僕は何も言えずに黙り込むことしか出来なかった。


「お前…いつまでそんなとこにいるつもりだよ。塞ぎ込んで目の前に起きたことを否定して。甘えんのもいい加減にしろよ。」
「!」


畏怖の表情で、びくっ、と肩を震わせたミランダさんに秋羅は拳を握ると目を細める。
またミランダさんの目から涙が落ちた。


「それに何も出来ないからと勝手に決め付けて。挙げ句の果てには他人任せか?俺はな…そんな奴らが大嫌いなんだよ。」
「ッ」


吐き捨てるように言われた言葉にミランダもリナリーも勿論僕でさえも目を見開いた。
静かな中の怒り。
今まで秋羅がこんな感情的に何かを言ったことはなかった。
僕らから一歩引いて全てを見ていた秋羅。
歳の割りにいつだって冷静で大人な雰囲気を持ってるのに。
秋羅は眉を寄せると気持ちを落ち着かせるように目を閉じた。


「他人任せは楽だよな。自分は何もしないで見てるだけ。だけどな、一度逃げればそれが一番楽だと知ってしまう。知ってしまえばまた同じことを繰り返す。繰り返した後に大切なものを無くしたことに気付くんだ。終わってしまえばもう戻れない。お前はこの現実から逃げ出すのか?」
「わ、わたしは…」


秋羅は目を開けて息をはくと静かに見据える。
何もかも見透かしているような気分になる漆黒の瞳で。
真っ直ぐな秋羅の視線に堪え切れずミランダさんは顔を伏せた。


「この街の奇怪を解く鍵はお前が持っている。今ココで逃げても何も変わらない。」
「だ、だけど…私には何も出来ない…何をやらせても私は…」
「何かを口にすればソレは言霊となってお前を縛る。変えたいと想うなら、まず自分を信じろ……時計が泣いているぞ。」


最後に小さく呟いた秋羅は一瞬悲しげに目を細めると、口籠もったミランダさんに背を向けた。
慌てて僕が声をかければ、秋羅は哀しげに目を細めて苦笑を浮かべただけ。
すぐにさっきまでいた壁に寄りかかると空を見上げた。


「(秋羅は…)」


掴もうとしていた手を下ろしてぎゅっと拳を握る。
秋羅に言葉の意味を問いただしても表情の理由もこれ以上何も言っても答えてくれない。
「こんな時に神田だったら。」なんて、いない奴を頼っても仕方がないのも解ってる。
けど、秋羅のあんな哀しげな表情は見ていられなかった。


「そんなに落ち込まないでください。言い方はアレですが、秋羅だってミランダさんを勇気づけようとしたんですよ。」


僕の言葉にも反応せずに秋羅はただ相変わらず外を見ているだけ。


「それに僕も秋羅と同じ意見です。」


顔を上げたミランダさんの視線に合わせてしゃがむと顔の前で手の平を合わせた。


「僕達に手を貸してください。明日に戻りましょう。」


涙を流すミランダさん。
長い沈黙の中で「コチコチ」という時計の音だけが響いていた。
すると「コチン」と一際大きい時計の音が響く。
時計の音が止まった。
スクッ、と急に立ち上がったミランダさんに慌てて声をかける。


「ミ、ミランダさん?」


けど、僕の声が聞こえてないのかまるで反応がない。
何も言わずにベッドがある方へとスタスタ歩いていった。
様子がおかしいことに気が付いた秋羅も外から目を離してミランダさんを見つめている。


「空気が…」


顔を顰<シカ>めた秋羅から視線をミランダさんに戻すと、ベッドまでノンストップで歩き。









「(寝たー!!)」


何事もなかったかのように死んだように横になった。
意味が解らない。
まさかの出来事に僕は思わずずっこけて頭を強打した。


「寝るんですか!?」
「何か様子が変ね…アレンくん、秋羅くん!!」


驚愕したリナリーの声に後ろを振り向くと宙に浮く時計。
回りにはいくつもの羅伴<ラバン>が壁などに浮き上がっていた。


「な、何だコレ!?」
「まさか…あの時計…?」

「そのまさかだよ。」
「……え!?」


確信めいた秋羅の言葉。
すると、それに同調したように時計が12時を差して「ゴーンゴーン」と鳴り響いた。
町全体に響いてそうな音が鳴り終わると同時に、今度は時計の針が逆戻りをし始める。
それは“今日起きた出来事”の時間を吸い込み始めた。


「二人とも俺に捕まれ!」

「はい。」
「う、うん。」


秋羅を見れば町中の時間が時計に吸い込まれていく。
秋羅の手を掴んで、リナリーの腕を放さないように握ってソレ終わるのをじっと待つ。


コチッ!
「!」


時計が全部、吸い込み終わると時間は7時を差していた。
パァァ…、と明るくなる視界に後ろを振り向けば朝日が昇る。


「朝ぁ〜!?」
「そうみたいだな。」


チュンチュン、と鳥の囀<サエズ>りも聞こえてきた。
呆然とする僕らの横で呆気らかんと言った秋羅はこの事態を予想していたのか。
暫く何も考えられなかった僕の後ろでミランダさんは何事もなかったかのように目覚めた。


「あら……?私いつの間にベッドに…」


僕とリナリーは目が点になり開いた口が塞がらない。
けど、秋羅は小さく欠伸をすると「俺、少し寝るわ。」と壁に寄りかかった。

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