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嘆きの刺

11

 イバラの背中は痛々しい青紫色に変わっていく。

「いい加減吐けよ! この野郎!」

「無駄だよ、ベッティガー」

 ずっと傍観していた鼻眼鏡の看守が初めて口を開いた。
 ベッティガーは棒を下ろし、すさまじい形相で仲間を振り返った。
 ベッティガーの髪の毛は乱れ、汗で束になって額にはりついている。

「なにが!」

「だってそいつ喋らねえもん。何度くり返せば気が済むのさ。同じだって、何回やっても」

 鼻眼鏡の看守は眉を上げ、あくびをかみ殺しながらイバラに近づいていく。
 寝台に片ひじをつき、寒さと痛みに震えっぱなしのイバラを眺めた。

「かわいそうじゃねえ? こんなガキを、こんなになるまで痛めつけてさあ。あー、泣いてるし」

 鼻眼鏡の看守はイバラの腫れた背中に指をはわせた。
 触れられただけでもひどく痛んだが、イバラはなんとか悲鳴を噛み殺した。

「かわいそう? こいつは罪人だ。罪を認めない罪人になど同情の余地はない」

「でもこいつ裁判受けてないだろ? 次の裁判が開かれるまで、ここで拘留してるだけじゃねえか」

「罪は決まってるも同然だ! アトラッピオを携帯して、組織の人間が待ち合わせに使うらしい場所にのこのこ現れたんだぞ!」

 いきりたつベッティガーを鼻眼鏡の看守は身ぶり手ぶりで軽くいなした。

「まあまあ。もういいだろ。あとは俺に任せてくれよ」

「あ?」

「こいつ、ちっと肉づき悪いけどかわいい顔してるよなあ。殴るよりももっと生産的なことしようぜ?」

 鼻眼鏡の看守は眼鏡の位置を直し、ベッティガーのポケットから枷の鍵を抜き取り、イバラの両足の枷を外した。
 そのままひっくり返して仰向けにする。

 じくじく痛む背中が固い石に触れ、イバラはうめいた。
 頭上の手枷をがしゃがしゃ言わせて痛みを紛らわせようとしたが無駄だった。

 イバラが苦悶の表情を浮かべていることに気づいた鼻眼鏡の看守は、優しそうに笑って頷いた。

「痛いのか。かわいそうに。いいものがあるぞ。これで痛みを忘れられる」

 鼻眼鏡の看守はふところから薄汚れたガラスの小瓶を取り出した。
 小瓶の中には乾燥した花のようなものが入っている。
 看守は小瓶の蓋を開け、イバラの鼻に近づけた。

「ほら、かいでみろ。いい匂いがするぞ」

 イバラは顔をそむけたが、顔をつかまれて無理やり瓶の中身をかがせられた。
 熱帯林の中で果実を煮詰めているような濃厚な香りがした。
 息苦しくなるほど強い匂いで、頭の芯がぼうっとなっていく。
 次第に体がしびれてきて、背中の痛みは靄の向こうに消えていった。

「う……ん……」

「効いてきたか? いいだろ? 貴重なんだぜ、これ」

 イバラは眉根を寄せ、長い息をはいた。
 目の前がちかちかして、うまく思考がまとまらなくなってくる。

 イバラが焦点の合わない目つきをしだしたことを見て取った看守は、満足げににたりと笑って小瓶にまた蓋をするとふところに戻した。

「よーしよし……やっぱりやるなら感じてもらわないとつまらないからな」

 そう言ってイバラのズボンをずり下ろした。
 ベッティガーは窓際に置かれた椅子に座り、つまらなそうに鉄の棒を手の中でくるくると回している。

 鼻眼鏡の看守はイバラのシャツを枷につながれた手首までまくりあげ、ズボンを右足だけ抜き取った。
 イバラは薄手のズボンを左足首にひっかけただけの無防備な姿になった。

 鼻眼鏡の看守はイバラの裸体をゆっくりと時間をかけて眺めまわした。

「いい体だ……でもこんなところにいるからには、初物じゃないんだろうな。それだけが残念かな」

 看守はそろそろとイバラの胸から腹にかけて手を滑らせた。
 イバラは働かない頭でぼんやりと男が欲情していることを察した。

 看守は生唾を飲みこみ、恐る恐るイバラの首筋に吸いついた。
 舌を出し、白い肌を味わうように舐めていく。
 だんだんと動きは大胆になり、首筋を舐めまわしたあと平らな胸にむしゃぶりついた。

「あ……」

 飾りを舌先でつつかれ、イバラはかすかに声を出した。
 看守はそれを聞き逃さなかった。
 夢中になって胸の突起をなめて吸いまくり、両方が赤くぷっくりと腫れるまでくり返した。

 イバラは震えることすら忘れた体を少し揺らした。
 目の前にいるのが小汚い看守であることもわからず、ただ快楽だけを追った。

 看守はイバラの胸と腹を唾液でべとべとになるまで舐めまくり、下腹部に舌を滑らせるとそのままイバラ自身を口に含んだ。


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