2 「こんなところにいたら風邪ひいちゃうわよ。おうちどこ? お姉さんに教えてくれる?」 男の子は何度も強く首を振った。 「言えないの? それとも、言いたくないの?」 男の子はさらに首を振った。 「ねえ、なにか言ってくれない? 黙ってたら、なんにも力になれないわ。もう暗くなるし、ずいぶん冷えてるじゃ――」 女性が男の子に手を伸ばすと、男の子はひときわ強く弟を抱きしめて叫んだ。 「ぼくたちに触るなあ!!」 女性はびくりと肩を震わせて手を引っこめた。 年端もいかない少年なのに、その恫喝は大の大人をもすくませるほどの威力を持っていた。 男の子が叫ぶと同時に、ふわりとなにかが宙を舞った。 女性は目を見開き、手から傘が滑り落ちた。 男の子の背中に、一対の黒い翼が生えていた。 体格に見合った小さな翼を広げ、男の子ははっとして背後を振り返った。 激昂したはずみで、うっかり種族の証が現れてしまったらしい。 「まさか……これ、本物……?」 女性は開いた口が塞がらなかった。 珍しい種族はいくつか存在するが、耳と尻尾以外のものがついている人間など見たことがない。 鳥類の特徴などもってのほかだ。 「か、カラス……?」 新しい種族との、邂逅の瞬間だった。 ◇◇ 「はあっ?」 安い居酒屋の一画で、百佑(もゆ)は素っ頓狂な声をあげた。 丸い目をさらにまん丸にし、信じられないとでも言いたげに目の前の友人を見据えている。 百佑だけではなく、一緒の席で飲んでいたほかの友人たちも同じように目を剥いている。 「はっはあ、そんな驚くなよ。でも、まっ、驚くよなあー」 酒ですっかり出来上がった輝弥(てるや)は、赤みがかった茶髪をかき、得意げに笑った。 百佑は輝弥の両肩をつかみ、危機迫る表情で詰め寄った。 [*←] [→#] [戻る] |