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マイ ディア マザー



「ふざけんなてめえ、昨日の今日でよく顔出せたな、ああ?」
「お前に用事はねえよ」

 可伊は蠅でも払うように顔の前で手を振った。
 また百佑に話しかけようとするが、大斗が許さない。

「おい、そこどけ寺垣」
「ここは宝尭だ、てめえの好きにはさせねえよ。とっとと帰れ」
「俺がなにしようが俺の勝手だ。どけ寺垣、邪魔だ」
「邪魔なのはてめえだ! なんだよやんのか? あ?」
「俺は護島に用事があるんだ。今から一緒に遊びに行くんだからな」
「勝手に決めてんじゃねえ!」

 二人は言い合いを始めてしまい、晴弘と遊羽伊と輝弥だけでなく、喧嘩が始まるのではないかと危惧して事の成り行きを見守っていた宝尭生らは、ただ呆然と突っ立っている。
 可伊と大斗は互いにののしりあっているが、どちらも手を出そうとはしない。
 可伊の取り巻き三人組は、少し遠くから可伊の言葉に合いの手を入れて応援している。

 百佑はなんだかここにいてはいけないような気がして、輝弥の腕をつかんでこっそり二人の横を通り門へ向かった。
 しかし可伊の目はごまかせなかった。

「あっ待てよ護島、俺も行く!」
「行くなボケ! 帰れ!」

 すかさず可伊と大斗もついてくる。
 百佑は黙って早足で歩いた。
 輝弥は百佑に引っぱられて歩きながら、後ろをちらりと見やった。

「ねえもゆたん、なにあれ? 二人となんかあったの?」
「知らない、おれはなにも知らない」

 百佑は意地でも後ろを見ないようにしていた。

「どうしてこうなったんだ……」


   ◇◇


 そこは紫煙の充満した、小さな個室。
 中央に麻雀卓が置かれ、四人の男が椅子に座って麻雀に興じている。
 頭上でゆらゆらと揺れる電球が、四人の影を揺らしている。

「お前のおかげで奴らの武器ルートを一つ潰せた。礼を言う」

 左手に煙草を持ち、右手で山から牌を一枚取った男が言った。
 男の向かいに座ったスーツの男はにやりと笑って軽く一礼した。

「どーも。お役に立ててなによりだ」
「お前さあ、かなり危ない橋渡ることになるのによくハイエナ抜けだしたよなあ」

 続いて自摸を行った一人が言う。
 スーツの男は肩を震わせて笑い、山に手を伸ばした。

「いいんだよ、俺はカイを出し抜きたいだけなんだから」

 笑うスーツの男を、三人は何気ない表情のまま静かに観察している。
 最近ハイエナを裏切って億の金を土産に組織にやってきたこの男を、彼らはまだ信用しきっていない。
 彼の目的はいまいちつかめないのだ。
 しかし彼の動きに不審な点はなく、彼の功績によってハイエナへ損害を与えることができた。

「中堀」

 煙草をふかす男が厳しい目を向かいの席の男に向ける。

「お前はどうしてそこまでカイに固執する? なにか恨みでもあるのか?」
「そんなんじゃないさ。貴方も会えばきっとわかる」

 中堀は頬杖をつき、宝石にでも触れるように自分の手牌の側面をなでた。
 目はどこか遠くを映しているように焦点が定まっていない。

「あの人は特別だ……あの人がいるから、俺はハイエナに入ったし、ハイエナを出た。本当に、人を振りまわすのが得意な人だよ」

 うっとりと呟く中堀を三人は胡乱な目つきで見やる。

「そういえば」一人が言った。
「カイの弟の件はどうなった? 護島百佑のことはもう結構広まってるみたいだけど……手に入れたらこの上ないカードになるって、言ってただろ?」
「ああ……それならもう手は打ってある」

 中堀の言葉に、向かいの男は煙草を持つ手を下ろした。

「なんだと? 聞いていない」
「今初めて言ったんだから、当たり前さ」

 中堀は彼らの冷ややかな視線などものともしていない。

「すでに護島百佑のそばで、俺の手駒が友達面して仲良くしてるから。期を見て、な」

 くすくすと笑う声が、小さな部屋に響いて消えた。



 つづく


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あきゅろす。
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