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マイ ディア マザー



 五時三十分。
 晴弘のアパートに着いた百佑は、鞄を置くと早速テレビの前に座った。
 晴弘の部屋は以前来たときと同じく散らかっていたが、ゲームが楽しみすぎてまったく気にならない。
 晴弘はそわそわして見上げてくる百佑に口元を緩め、焦らすように時間をかけてゲームをセットした。

 百佑はすぐゲームに夢中になった。
 晴弘は来るときにコンビニで買ってきたチョコ菓子を食べながら、真剣な百佑の横顔に魅入った。

 すっかり素に戻った百佑は、テレビ画面に悪態をついたり貧乏ゆすりしたりしている。
 晴弘がチョコ菓子を口元に持っていくとぱくつくが、目は画面から離さない。
 まるで餌付けしているようで、晴弘は面白がって残りの菓子をすべて百佑に与えてしまった。

 七時三十分。
 二時間ぶっ通しでゲームを続けた百佑はさすがに疲れて、コントローラーを置いて伸びをした。

「おつかれー」

 晴弘はローテーブルの上の空いているところにコップを置いた。

「喉乾いただろ」
「わ、ありがとうございます」

 百佑は礼を言って冷たいコップを手にとり、中身を一気に飲み干した。
 すべて飲んでから百佑は首をかしげた。

「あれ? これお酒?」
「うん、カクテル。こないだ宅飲みしたとき余っちゃってさ、ちょっと減らすの手伝ってくれない?」

 晴弘はカクテルの缶を両手に持って言った。
 百佑はいい気分だったのですぐ了承し、缶を一つ手に取った。

「かんぱーい」
「かんぱーい」

 缶をかちりと合わせ、二人は甘い酒をあおった。
 ポテトチップスをつまみに、ゲームを語らいながらどんどん酒を減らしていく。

「あー晴弘さん食べすぎですよーう。おれの分なくなっちゃったあ」
「ああごめんごめん。ほかの持ってくっから待ってろ」
「はーやくー」

 すっかり頬を赤くした百佑は空き缶を振りかざして晴弘をせっついた。
 晴弘はキッチンの棚に入っていたスナックの袋を取り出し、百佑のところに持っていった。
 百佑は晴弘が袋を開けるのをじっと待っている。
 閉じられた部分をすべて開けてシートのようにすると、百佑は口を大きく開いた。

「あーん」
「……っ、はいはい」

 晴弘は笑いをこらえるように口端をひくひくさせながら、百佑の口にスナックを放った。
 百佑はスナックを咀嚼してふふと笑った。

「これおいひーい」

 百佑の笑顔を見た晴弘の顔つきが変わった。

「百佑」
「はーい?」
「ちょっと俺の携帯とってくんない?」

 百佑はきょろきょろと晴弘の携帯電話を探す。
 晴弘は百佑の背後のセミダブルベッドを指差した。

「あっち。枕の隣」

 百佑は体をねじって後ろを向き、黒と白の市松模様のカバーのかかったベッドを見た。
 黒い枕の奥にぽつんと折り畳み式の携帯電話が置いてある。
 手を伸ばして取ろうとしたが、ベッドが広いので届かない。
 仕方なくベッドの上に乗って携帯電話を取った。

「はいどうぞ……」

 振り向こうとすると、肩を押されてころりと仰向けに倒れた。
 なにが起きたか理解する前に、晴弘がのしかかってきて口を口で塞がれた。

「んんっ?」

 顎をつかまれて口を開かされると、ぬるりとした舌が入りこんできた。
 器用に百佑の舌を捕えて絡ませてくる。
 百佑は混乱しながらも、水音を立てて口内をかき回されると、体の奥が熱くなっていくのを感じた。
 晴弘は存分に百佑の中を味わったあと、リップ音を立てて唇を離した。

「んっ……は、晴弘さんっ? なにしてんですかあ……?」

 晴弘の手が制服のシャツのボタンを外し始めたので、百佑は酒でほけほけしながら慌てた。
 そうっと晴弘の腕をつかむが晴弘は手を休めない。

「いいじゃん、よくしてあげるからさ」
「えええっ?」

 晴弘の声は低くかすれていて、真上から見下ろしてくる顔は情欲に染まっていた。
 どこかでスイッチが切り替わったようで、普段の快活さがなりを潜めて本能で動く雄の顔になっている。

「あっ、ちょっと……」

 ボタンがすべて外れてシャツをはだけさせられると、百佑のろくに筋肉のついていない平べったい胸があらわになった。
 酒でほんのり赤く色づいている。
 晴弘は百佑の鎖骨に指をはわせ、だんだん下げていき傷のない肌をなでた。


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