5 晴弘は全くの他人面で、灰皿を見つけてのんきに煙草をふかしている。 柊一はけろりとして友人を慰める百佑を面白そうに見つめている。 輝弥が落ち着いてきた頃、大斗と遊羽伊のペアが戻ってきた。 なぜか遊羽伊は出口のところで従業員らしき男にぺこぺこ頭を下げている。 その横で大斗はそっぽを向いてむすっとしている。 百佑と輝弥は顔を見合わせた。 「おーす」 少し疲れた様子の遊羽伊は百佑たちに歩み寄りながら手を振った。 「ども……あの、どうかしたんですか?」 百佑は遊羽伊の後ろから歩いてくる大斗をちらりと見やって言った。 「どうもこうもないよ。まったく、うちの大将ときたらさー」 「はい?」 「後ろから脅かしてきた幽霊役の人を反射で蹴っちまったんだよ。 その人は気絶しちまうし、周りにいた幽霊たちが仰天して駆け寄ってくるし、ほんとしょうがないっつーか……」 遊羽伊は頭をぽりぽりかきながら、半眼で大斗を睨みつけた。 だが大斗は目を合わせようとせず、黙ったままなにも言おうとしない。 「それは大変でしたね……」 輝弥が言った。 「うん。ちょっと俺がかわいい子に気を取られてた隙にやられちゃったよ。 喧嘩のときはこんなに頼りになる奴もいないのに、普段はどうしてこうも気を抜けないのか……」 遊羽伊はこれ見よがしにため息をついて見せた。 だが大斗の表情はさらに険悪になっていく。 「かわいい子って……」柊一が言った。「前の客と鉢合わせでもしたのか?」 「いや、違いますよ」 遊羽伊は嬉しそうににっこりほほえんだ。 「かわいい幽霊がいたんです。長い黒髪で顔はあんまり見えなかったけど、色白で華奢でちょい危なげなところがすっごいそそられたんすよー」 百佑は少し寒気がした。 その幽霊ならちょっと目を開けた隙に見た気がするが、夢に出てきそうなおぞましい姿だった。 ちょい危なげ、で済まされるレベルではない。 大斗は動物がうなるような声をもらした。 「……幽霊に見とれてる奴と一緒にお化け屋敷入ってみろ、なにか蹴りたくもなる」 百佑はほんの少し大斗に同感した。 遊羽伊は様々なものの好みが人とずれているらしい。 その後、六人はゴーカートに乗ったり、あまり並ばなくてもいいアトラクションを回って過ごした。 輝弥はお化け屋敷を離れてから終始ご機嫌で、百佑も一緒になってはしゃいだ。 遊羽伊は自由気ままに振る舞い、大斗は柊一に気を遣いっぱなしで全然楽しめていなかった。 晴弘と柊一は、楽しそうな百佑を暖かい目で見守っている。 園内を十分まわりベンチで休憩していたとき、柊一がぽつりと言った。 「なんか喉乾かない? 百佑」 すると大斗がさっと立ち上がった。 「俺なにか買ってきます。なにがいいですか?」 「ああ悪いね。じゃあアイスコーヒー。あればエスプレッソ」 「はい」 大斗は素早く自動販売機へと歩いていった。 宝尭高校ではなにも言わずとも大斗のところに飲み物が運ばれてくるというのに、すっかり立場が逆転している。 晴弘や遊羽伊は珍しそうに大斗の後ろ姿を見送った。 百佑はなんだか複雑な気分だった。 ◇◇ 日が落ち、夕食時となった。 一行は大きな噴水の縁に並んで座り、マップを広げてレストランを探した。 園内は夜ということを感じさせないほど明るく、マップを読むのがまったく苦にならない。 噴水はあちこちの照明を反射してきらきら光っていた。 そんなとき、柊一が不意に立ち上がって言った。 「ごめん電話だ」 柊一はズボンのポケットから携帯電話を取り出し、なにか話しながら百佑たちから離れていく。 だが二、三言話したあと、すぐに戻ってきた。 「俺はそろそろ行くよ」 「えっ、ご飯食べてかないの?」 百佑が言った。 百佑の隣に座っていた晴弘は笑って百佑の肩を叩いた。 「しょうがないよー、お兄さん社員旅行だもん。夕飯は社の人と食うんだろ」 「あー……そっか」 百佑は曖昧に笑って頷いた。 社員旅行ということにしてあるから、そう言われれば否定できない。 大斗は少し緊張した面もちで柊一を見つめていた。 [*←] [→#] [戻る] |