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マイ ディア マザー



 百佑は久々のバッティングセンターだったので、グリーンでまとめられた内装をきょろきょろ見回した。
 たくさんの若者でにぎわっていて、平日の午後だからか高校生も少なくない。
 バットが空気を切る音とボールを打つ甲高い音がひっきりなしに響いている。

 大斗は慣れた足取りで奥のボックスを陣取り、鞄をテーブルに置いた。
 晴弘はブレザーを脱いでシャツの袖をまくりあげた。
 細い腕だが引きしまっていて、両手首のブレスレッドがキラリと光った。
 百佑がじっと見ていると、気づいた晴弘が顔を近づけてきた。

「なーにみとれてんだよ?」
「ちっ違いますよ! そんなんじゃないですっ」

 百佑はふいとそっぽを向いて大斗の向こうに逃げた。
 晴弘は機嫌よさそうにニコニコしながら、小銭を持ってボックスに入っていった。

「百佑」
「はい?」
「そこの自販機でなんか飲み物買ってきてくれ」

 大斗は百佑に自分の財布を渡して言った。

「はーい」

 百佑は高そうな革財布を握りしめ、奥まった一画に設置された自販機に歩いていった。
 三つ並んだ自販機を見比べてなににしようか迷っていると、隣から腕が伸びてきて財布を取られた。
 当然のように大斗の財布から小銭を取り出しているのは遊羽伊だった。

「遊羽伊先輩、それ寺垣先輩のですよ」
「うん知ってる。俺も喉乾いたんだよねー」

 遊羽伊は自販機に小銭を入れ、迷うことなくボタンを押した。

「百佑も好きなの選んでいいと思うよ? そうでなけりゃ財布なんて渡さないだろーしさ」
「え、そうなんですか?」
「たぶん」
「……寺垣先輩がいいって言ったんじゃないんですか?」
「言ってないけど、ばれなきゃいいんじゃない?」

 百佑は黙って遊羽伊の手から財布を取り返した。
 この適当さ加減は、輝弥とよく似ている。

 百佑は無難な炭酸飲料を選んで買った。
 遊羽伊は隣で大斗の金で買った缶を早速ごくごくと飲んでいる。
 パッケージを見て百佑は眉をひそめた。

「先輩……それ好きなんですか? ドクターペッ……」
「ん? 好きだよー」
「……変わってますね」
「そう?」

 遊羽伊はよほど喉が渇いていたのか、一息に中身を飲みほしてしまうと、大きく息を吐いて空き缶をごみ箱に投げ入れた。
 そして何事もなかったかのように大斗たちのところへ戻っていく。
 豪胆なのかただの考えなしなのか、百佑にはいまいち判断がつかなかった。

「はい先輩」
「おう、さんきゅ」

 百佑は財布と一緒に冷たい缶を大斗に渡した。
 大斗は炭酸飲料を飲みながら携帯電話をいじっている。

「次誰ー?」

 打ち終えた晴弘がさわやかな笑顔で言った。

「百佑やる?」
「えーっと……」

 百佑はあまり運動が得意ではない。
 バッティングセンターに友人のつき合いで来ても、あまり打席には立たない。
 百佑がちらりと横を見ると、輝弥が尻尾を振りながら期待の眼差しで百佑を見つめていた。

「……輝弥、やる?」
「やる! ありがとうもゆたん!」

 輝弥は嬉々として用意していた小銭を握りしめ、晴弘と入れ替わりにボックスに入った。
 晴弘は椅子に座り、大きく開いたシャツの合わせをつかんでぱたぱたと中に空気を入れた。
 うなじにかかる金髪と見え隠れする鎖骨が、高校生らしからぬ色気を放っている。
 百佑は慌てて視線をそらした。

「遊羽伊さーん! 見ててくださいよ、俺ホームラン打っちゃいますよー!」

 輝弥がバットを振り回しながら叫んだ。

「はいはい、がんばれ」

 遊羽伊は笑って手を振り返した。
 子供の成長を見守る親のような柔らかい目つきだった。
 百佑は遊羽伊の心情がなんとなく理解できた。

 輝弥がかけ声を上げながらバットを振っていると、新たな団体客がやってきた。

「あれー! 寺垣じゃん!」

 携帯電話をいじっていた大斗はうっとうしそうに顔をあげた。
 入り口からぞろぞろと入ってきたのは、学ランを着た五人組だった。
 五人とも派手な髪の色で、学ランは改造されて下にはどぎつい色のパーカーやプリントTシャツを着ている。
 大斗に声をかけたのは、先頭に立っている短い赤髪の生徒だった。


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あきゅろす。
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