6 遊羽伊が聞き返したが晴弘は無視し、百佑を自分の膝の上に座らせると、腰に腕をまわして逃げないようにした。 「そんなにしっぽ見たいわけ?」 「みたーい」 「でもそれは罰ゲームの範疇越えてるからなー。俺だけってのは不公平じゃねえか?」 「えー……」 百佑はしゅんとして悲しそうにうつむいた。 晴弘はしょんぼりする百佑を見て目を細めた。 「俺もお前のウサギ耳見たいなあ。お前が耳つけたら俺もしっぽ出してやるよ」 晴弘は蠱惑的にほほ笑んだ。 だが百佑はますます表情を暗くした。 「えー……でもおれ耳出せないし……」 「俺だって恥ずかしいの我慢してんだよ。百佑なら絶対かわいいって。な」 百佑は残念そうにため息をついた。 「だから、できないんです……」 「そこまで嫌がることないだろ? なあいいじゃん、ちょっとだけ」 唇が触れ合いそうなほど近くで晴弘が囁いたとき、入り口のドアが開かれた。 大斗はコンビニ袋を下げたまま、玄関で立ちつくした。 玄関からでも、晴弘の膝に座る百佑と百佑の腰に両手をまわす晴弘がよく見えた。 「……え? なんでそんなことになってんだ?」 百佑は大斗のほうを向くと、晴弘の肩に手を置いてわずかに腰を浮かせた。 「お帰りなさーい」 「え? ああ……ただいま……?」 大斗は不思議そうにしながら部屋に戻り、両手を突き出してきた百佑にコンビニ袋を渡した。 百佑は袋の中を覗きこみ、バナナを取り出した。 「えー一本だけ? バナナって言ったら、普通ひと房買ってくるもんじゃないですか?」 大斗はわざわざバナナが置いてある少し遠くのコンビニまで買いに行ったのに、百佑は遠慮なかった。 大斗は百佑の変わりように目をしばたたかせた。 「そうだよなあ。大斗、近くのスーパー行くとかできただろー?」 晴弘まで便乗して小言を言いだす始末だ。 大斗はなにがなんだかわからず、遊羽伊の隣に座って耳打ちした。 「おい……どういうことだこれは。晴弘も百佑もなにがあったんだ」 「なんか百佑が酔っぱらって子供に戻っちゃってさー……そのかわいさに晴弘が目覚めちゃったみたい」 「なんだそりゃ」 「晴弘、相当百佑を気に入ったみたいだよー? あんなに嫌がってたキツネ耳も百佑が見たいって言ったから見せちゃってるし」 「あ……ほんとだ」 二人の視線などつゆ知らず、百佑はその場でバナナの皮を剥いてほおばった。 おいしそうに食べる百佑を見て、晴弘も嬉しそうにしている。 「おいしい?」 「おいひいです」 「百佑、バナナ好きなの?」 「好きですねー」 「そうかーバナナが好きなのかー……」 すっかり顔を崩した晴弘に、大斗は呆れて額に手を置いた。 「おい……なんか変な連想してんじゃねえだろうな」 大斗は少しのあいだだけでも百佑から目を離したことを後悔していた。 晴弘の節操のなさは、親友の大斗が一番よく知っている。 晴弘は気に入れば男も女も関係ない。 「なあ百佑、今日は泊まってくだろ? ここからだったら学校も近いし」 「晴弘っ」 大斗は思わず声を荒げていた。 晴弘はびっくりして笑みを少し引っこめた。 「なんだよ」 「お前、そいつには絶対手ぇ出すなよ。そいつになにかあったら俺埋められる。東京湾に沈められる」 「はー? なに言ってんの。そんなことしないよー。ねー百佑」 「ねー」 「おい! 真面目に聞けよ!」 大斗はいつになく焦っていた。 晴弘のせいで百佑が泣くことになれば、晴弘だけではなく大斗も間違いなくカイの怒りを買う。 カイを怒らせた者の結末は一つだ。 「晴弘、おい、聞けって」 「聞いてないねえ」 チューハイ片手に遊羽伊がのんびり言った。 もはや晴弘は百佑しか見えていない。 「で、今日は泊まりでオッケー?」 「んーん、帰りますよー」 「えー! いいじゃんもう遅いし。俺のベッド広いし寝心地いいよー?」 「でも帰らないと兄ちゃん怒るからー」 大斗は驚愕した。 「カ……お前の兄貴帰ってくるのか!? 忙しくて滅多に帰ってこないんじゃなかったのか!?」 [*←] [→#] [戻る] |