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マイ ディア マザー



 今のところカラスは柊一だけだと世間は認識している。
 だが、実は弟である百佑もカラスだ。
 百佑がカラスとばれると、必然的に柊一との関係も明るみに出てしまう。
 そこで百佑は、ウサギだと偽って生きてきた。
 ウサギなら耳やしっぽを出そうとしなくても、恥ずかしいからというウサギの男にありがちな理由で、周囲は納得する。

「じゃあ晴弘は天敵だねー」
「えと……キツネですか?」
「当たりー」

 自分のことを話題に出されても、晴弘は百佑を見ようともしない。
 確かにキツネっぽいかも、と百佑は思った。
 金髪もそうだし、つんとした雰囲気もどことなくキツネを彷彿とさせる。

「じゃあ今津先輩は?」
「遊羽伊でいいよー」
「……遊羽伊先輩はなんの種族ですか?」
「なんだと思うー?」

 聞き返され、百佑は小首をかしげた。

「うーん……なんだろう」
「ヒント」

 そう言って遊羽伊はぴょこりと耳を出した。
 髪と同じ明るい茶色の、丸みを帯びた小さな耳だ。

「あ、イタチ?」
「フェレットと言ってほしいね」

 悪戯っぽく片目を閉じた遊羽伊は、種族耳のせいかかわいげが増していた。
 百佑は笑って桃チューハイをぐびぐび飲んだ。

 遊羽伊はぺらぺらと喋りながらも酒のペースは衰えず、どんどん酔っぱらってどんどん話のスピードが上がっていった。
 百佑は終わりの見えない話に延々と付き合わされるはめになった。
 大斗と晴弘は遊羽伊が酔うと話が止まらないことをよく知っていたので、一線置いた向こうで煙草を吸っている。

「なあ、トランプやらねーか?」

 遊羽伊のマシンガントークに飽きた大斗が提案した。
 晴弘は待ってたとばかりにトランプを取り出した。

「先輩たちトランプ好きですねー」

 百佑は頬を赤く染めて言った。
 遊羽伊は缶を置いてきちんと座りなおした。

「よーしじゃあポーカーやるか」

 大斗が灰皿に煙草を押しつけて言った。

「百佑、ポーカーのルールは知ってるよな?」
「はあ。でもポーカーやってどうするんですか? なんか賭けるんですか?」
「まーな。だいたい小銭だけど、酒入ってるときは金は賭けないんだ。文句つける奴が絶対出てくるから」

 大斗は空き缶だらけのテーブルを見渡した。
 酒はまだ少し残っているが、スナックやからあげなどのつまみは全てなくなっている。

「そうだな、とりあえず負けた奴がコンビニにつまみの調達に行くってことでどうだ?」
「賛成ー!」

 遊羽伊が大声を張り上げ、缶を脇に押しのけてトランプを置くスペースを作った。
 缶がいくつか下に落ちてカーペットに飛沫が飛び、晴弘は少し眉をひそめた。

 カードが五枚全員に配られ、残った山はテーブルの中央に置かれた。
 百佑は自分のカードを見た。
 なにも揃っていなかった。
 最悪の出だしだ。

「よしじゃあ交換だ」

 晴弘が言った。
 まず遊羽伊が二枚、大斗も二枚、百佑は三枚、晴弘は一枚交換した。

「はい、オープン」

 四人は一斉にテーブルに手札を並べた。
 晴弘はツーペア、遊羽伊と百佑はワンペア。
 大斗はノーペアだった。

「ははー、言いだしっぺが負けてやんの」

 遊羽伊がからかい、大斗は面白くなさそうに鼻を鳴らした。

「ちっ、しょーがねえな……」
「俺ホッケの塩焼きねー」

 遊羽伊が言った。

「はいよ。晴弘は?」
「ドリアかグラタン。チーズ乗ってるやつ」
「わかった。百佑は?」
「おれりんごがいいです」
「百佑、コンビニにりんごは売ってない」

 百佑は残念そうに肩を落とした。

「そうですか……じゃあバナナでいいです」
「……わかった」

 大斗は財布だけを持ち、かったるそうに部屋を出ていった。

 遊羽伊はトランプを手際よく切り、三人分に配り始めた。

「大斗が帰ってくるまでもうひと勝負行こうぜ!」


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