[携帯モード] [URL送信]

ブルー・デュール
桜 常 編

102

 おれは鳴瀬に抱えられ、新は倉掛に抱えられて部屋を出た。
 施設の廊下は所員たちがばたばた倒れていて、異様な光景だった。
 これをすべて鳴瀬たちが素手でやったのかと思うと、背筋が寒くなった。
 湊と新はスタンガンで応戦していたかもしれないが。

 鳴瀬は倒れ伏す所員を丸太かなにかのようにまたいで歩いた。
 湊が玄関のドアを開け、おれは久方ぶりに外へ出た。
 太陽の温かい匂いに包まれて、生気がわいてくる気がした。
 施設の目の前は鮮やかな緑色の森で、住宅地から離れた静かなところだった。

 玄関を出てステップを下りていると、数台の車が数珠つなぎでやってきて、おれたちの前で次々と停車した。
 真ん中の一台は胴の長い黒のリムジンで、後部座席から友崇が飛び出してきた。

「りゅう!」

 友崇は鳴瀬に抱かれたおれの顔を覗きこみ、安堵の息をもらした。

「よかった、無事だったか……」
「来るのが遅いですよ。真岸先生」

 鳴瀬はとげとげしかったが、友崇はいつものようには怒らなかった。

「悪かった……準備に手間取ってしまって」

 車から何人もの男たちがぞろぞろと出てきた。
 真夏だというのにスーツをきっちり着こみ、それでいて涼しい顔をしている。
 友崇が頷くと、男たちは次々と施設に向かっていった。
 玄関に入る際、黒光りする武器を取り出していた気がするが、見間違いだろうか。

「あとは俺の部下に任せておけ。……りゅう、なんかお前おかしくないか? なにか飲まされたのか?」

 怪訝そうにしている友崇の腕を湊が引っぱった。

「新が刺されたんだ! 早く病院に連れていかないと!」

 言われて初めて友崇は、倉掛の腕の中の新に気がついたようだった。
 今や新の腹に巻きつけたシャツも真っ赤になっている。

「ああ、わかった」

 友崇はリムジンの助手席から降りてきた男に言いつけ、新を一台の車に乗せた。
 湊も運転手と一緒に車に乗りこみ、急いで病院へと向かった。

 新と湊が行ってしまうと、友崇は鳴瀬に向き直った。

「さあ、りゅうをこっちへ」
「俺が連れていく」

 鳴瀬の腕に力がこもった。
 友崇は困ったように頭をかいた。

「気持ちはわかるが、今は俺に任せなさい。木田川皇明が逃げていったんだろう?
あいつを捕まえられるのは君たちだけだ。木田川を追ってくれ」

 それでもしぶる鳴瀬に、友崇はいらいらし始めた。

「早くしないと、ひとり逃がしただけでも状況はかなり悪くなるんだ。君がりゅうの首を絞めることになるんだぞ」
「凌士、行こう」

 倉掛が言った。
 おれは大きく息を吸いこんだ。

「おれは、大丈夫、だから……」

 それだけ言うのにやたら体力を使った。
 鳴瀬はようやく納得し、おれを友崇に渡した。

「頼む」

 一言残し、鳴瀬は先に走り出した倉掛を追って走っていった。


   ◇



*<|>#

9/15ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!