ブルー・デュール
桜 常 編
52
落ち着いて目を開けると、おれの頭の両脇に手をついて鳴瀬が真上から見下ろしていた。
「収まったのか?」
「ああ……」
「なんだったんだ? お前、持病があるのか?」
おれはゆっくり起き上がると鳴瀬を押してどかせ、脱衣所のドアにもたれかかって座った。
「持病……まあ、そんなところかな。おれは昔からこの薬を定期的に飲まないとだめなんだ」
普段はなんともないので病気という気はあまりしないが、それ以外に説明のしようがない。
おれは昔からこの薬を飲んでいた。
今はときどき友崇からもらっている。
施設の連中なら、この発作の原因もわかるのだろう。
おれは過呼吸のようなものだと考えているが。
「なんの薬なんだ?」
「さあ」
「さあって……お前な、成分もわからないもの飲んでるのか?」
「だって必要だし」
鳴瀬はあきれて肩を落とした。
おれはよろよろと立ち上がって鳴瀬の手からピルケースを奪い、鞄を持って部屋の奥に入った。
ひもを引いて電気をつけると、ふたり分の荷物で散らかり放題の部屋が現れる。
備えつけの勉強机は机の下に縦に三つ引き出しが並んでいて、
一番上の引き出しには鍵がかかるようになっている。
おれは財布から鍵を出して引き出しを開けた。
中には薬が包装もせずごろごろ入っていて、開けた衝撃で互いにぶつかりあい、
引き出しいっぱいに広がった。
その奥には予備の変装用マスクが入っているが、これは滅多に取り出さない。
おれはたくさんある薬のうちひとつをピルケースにしまい、鞄に戻した。
鳴瀬はおれの隣に来て引き出しの中を覗いた。
止める間もなくひとつを取り上げ、蛍光灯の明かりに透かして眺めている。
鳴瀬が持つと薬が小さく見える。
青い飴玉のようなそれは、人工の光を通して水面のように輝いた。
「ブルーデュールだな。とても薬には見えないけど」
「ブルー……なに」
「こういう色のことだよ。こんな綺麗な薬なんて見たことないな」
鳴瀬は薬に興味津々で、ちっとも返そうとしない。
引き出しの中にじかに放りこんではあるが、とても大事なものなので粗末にしないでほしいのだが。
「返せよっ」
「ん、ああ……」
金でもせびるように手を突き出すと、ようやく鳴瀬は薬をおれに渡した。
おれの手の平に乗せるとき、なにか言いたそうな目をしていた。
◇
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