桜 常 編 14 さらにふたりを撃破したところで、いよいよリーダー格の顔色が変わってきた。 ドアの見張り役だったふたりも慌てて加勢に入る。 しかし誰も武器になるようなものを持っていないし、本当にリンチしようとしていたのかこいつら。 考えが甘すぎる。 ひとりは小型ビデオカメラをぶら下げていた。 なんでだよ、もっとましなものを持ってこい。 見張りのふたりは動きがとろかったので、殴ると見せかけて足払いをすると簡単に転んだ。 やけになったひとりが後ろから殴りかかってきたので、しゃがんでやり過ごし肘鉄をお見舞いした。 筋肉質の男たちが床に折り重なって呻いているのは奇妙な光景だ。 誰もまともな相手にならなかった。 あのときとは大違いだ。 シルバー専門店にいたスーツの男、あいつはこんなものではない。 「嘘だろ……なんなんだよお前!」 用意していた全員が伸びてしまったところで、リーダー格の生徒が喚いた。 子犬のように怯えて、なんとかおれから距離を取ろうとしている。 おれはブレザーをはおり直してボタンをはめた。 「そっちからしかけてきたんですよ、先輩。おれ悪いことしてないですから」 「うるさい! この状況、どう見てもお前が悪いだろ! 俺たちはなにもしてないんだぞ、 退学にしてやるから!」 困った展開になった。 どうやらこの先輩は親が金持ちの部類らしい。 そのとき、鍵がかかっているはずのドアが外から開けられた。 先生に見つかったかと冷や汗をかいたが、顔を出したのは本條兄弟の片割れだった。 「やっぱりここにいたか、りゅう君」 「み、湊君!」 後ろですっとんきょうな声がした。 区別がつくとはさすが信者だ。 「来るの遅いからもしかしてと思ったんだ。この部屋は今誰も使っていないはずなのに、 なんか物音がしてたから気になってさ。見に来てよかった」 湊は積み重なっている生徒には目もくれず、リーダー格に指を突きつけた。 その手にはこの部屋の鍵が握られている。 「君は風紀委員だよな。自分から風紀乱してどうするんだよ。鳴瀬会長にばらされたくなかったら 二度とこんな真似しないように。鳴瀬会長は僕たちみたいに寛大じゃないからな」 リーダー格は泣きそうな顔で何度もうなずいた。 眉根を寄せ下唇をかみしめて震えている様は、こんなことをされていなければ同情しただろう。 おれは湊に続いて会議室を出た。 生徒会室に向かっているようだが、湊はなにも喋らない。 沈黙が苦痛に感じ始めたころ、湊はおれを横目にぽつりと言った。 「……君、強いんだね」 「はあ、まあ」 おれは言葉を濁した。 あまり人と違うところを見せるのは得策ではない。 ◇ *<|># [戻る] |