桜 常 編 92 ※ 友崇といい、鷹屋といい、この学校に赴任してくる奴は皆こうなのか。 冨浦はどんなに睨みつけても怯まない。 欲情しきった目でなめまわすように体を見られている。 だんだん冨浦の息が荒くなっていき、怖気だった。 「いい加減にしろよ! 教師がこんなことしていいと思ってんのか!?」 「終業時間を過ぎたらプライベートタイムだよ。ずいぶん嫌がってるけど、君結構かわいがられてんじゃん?」 冨浦はおれのぺったんこの胸をもんだ。 胸元には、消えかけの鳴瀬の跡がまばらに残っている。 冨浦がやけに自信たっぷりなのは、おれが誰かに抱かれている証を見つけていたからか。 「あは、赤くなった」 寝ている上にのしかかられていては反抗できない。 携帯電話はベッド脇のワゴンの中だ。 ここからじゃ手が届かない。 電話して助けを呼びたいのに。 こんな奴に抱かれたくない。 「こっちも赤いねえ」 冨浦が胸の突起に吸いついてきた。 下唇をかみしめて怒りをこらえていると、くわえながら笑われた。 「そんな睨むなって。俺が大人のやり方を教えてあげるよ。隅から隅まで感じさせてあげるから」 結構です。 冨浦の手がベルトにかかり、ものの数秒で引きぬかれた。 さすがに手慣れていやがる。 本気で殴ってやろうかと画策していると、ノックもなしに保健室のドアが開く音がした。 冨浦は飛び上がるようにしてベッドから降りた。 おれはすぐに体を起こしてシャツの前を合わせた。 「はいはい、どちらさま?」 態度をがらっと変えて冨浦はカーテンの向こうへ出ていき、中を見せないようにすぐカーテンを閉めた。 邪魔されたせいか声が少しこわばっている。 「荷物持ってきたんすけど」 聞こえてきたのはひどくぶっきらぼうな声だった。 「戸上くんの友達? それはわざわざありがとう。彼なら今起きたところだよ」 おれは急いで身支度を整えてベッドを降りた。 カーテンを開けると、ドアの前に木田川が立っていた。 自分の鞄を肩にかけ、おれの鞄を手に持っている。 近づくと無言で鞄を差し出してきた。 具合はどうだとか、気のきいた台詞は思いつかないらしい。 「ありがとう。じゃあ先生、おれもう行きますんで」 額に貼りついた熱さましをはがしてごみ箱に投げ、おれは木田川をうながして外に出た。 今は君が救世主のように感じるよ。 ◇ *<|># [戻る] |