桜 常 編 91 「ん……」 なんだかとても頭がすっきりしている。 「あ、起きた?」 引きずるような足音がして、頭の脇のマットレスが沈みこんだ。 目を開けると、冨浦がすぐそばに座っておれを見下ろしていた。 おれは思いっきり伸びをして目をこすった。 「あれ? おれ……寝ちゃってた……?」 「よく寝てたね。起こすのも忍びないからそのままにしといたけど、もう放課後だよ」 カーテンが引かれていて時計が見えないが、窓から差しこむ日差しはオレンジ色だ。 一時間だけ寝るつもりがだいぶ寝過ごしてしまったらしい。 「どれ、熱下がったかな」 額に熱さましが貼られているので、冨浦は首に触れて熱を計った。 手が冷たくて身震いした。 「下がったみたいだね」 「あー、なんか寝たらすっきりしました」 「疲れてたのかな。寝不足もあったんじゃないの? 試験勉強のしすぎだったんじゃない?」 「そうかもしんないです」 やはり慣れないことはするものじゃないな。 体は丈夫なほうだが、ちょっと勉強するとなぜかばててしまうようだ。 おれには勉強は向いていないんだ。 「……あり?」 冨浦の手はなかなか離れていかなかった。 それどころかどんどん下に降りていく。 浮き出た鎖骨をなで始め、寝るためにボタンを三つ開けておいた合わせから、不届きな手が侵入してきた。 「あの、ちょっと、先生?」 手首をつかんで拒否の意を示すも、冨浦は相変わらず白衣の天使のような笑顔を貼りつけたまま、 やめようとしない。 もう片方の手で残りのボタンも外された。 「先生! おれ、病人!」 「もう熱も下がったろ。それに軽い風邪は汗かいて水飲んどきゃ直るんだよ」 止めようとした手はシーツに押しつけられた。 「先生? なんか口調変わってませんか?」 「今日の終業時間はもう過ぎたからな。もう先生だからって遠慮することもないぞ? 先生って呼んでくれるのは大歓迎だけど。なんかいけない関係って感じで興奮しない?」 「いや意味わかんないですから……ちょっと、やめてくださいってば! おいこらやめろクソ教師!」 「なんだ、結構口悪いな」 *<|># [戻る] |