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ブルー・デュール
桜 常 編



 これほど帰りのホームルームが長く感じたのは初めてだった。
 疲れはとれないし、手首はずきずきするし、クラスメートの視線は痛いしで、
寮に帰るのが待ち遠しかった。

 部室棟へ向かう慶多と別れ、おれは下駄箱に急いだ。

 しかし途中で誰かに呼びとめられた。
 廊下の角に隠れるようにして手招きしている茶髪頭は、生徒会副会長の倉掛青波(くらかけあおば)だ。

「なんですか……慶多ならもう部活行きましたよ」

 足を引きずるようにしてそばまで行き、おれはげんなりして言った。
 副会長はどこか慶多に似た笑顔でかぶりを振った。

「いやいや、今日はあんたに用事があるんだ」
「おれに?」

 体育委員の連中なら顔を真っ赤にして喜ぶところだろうが、いかんせんおれはこれっぽっちも嬉しくない。

「そう。あんた慶多の友達の戸上りゅうだろ?」

 おれは黙ってうなずいた。
 短髪を立たせて眉を細くし、ブレザーからシャツをはみ出させたあげく
胸元にネックレスが見え隠れしている姿は、とても生徒の模範には見えない。
 鳴瀬ほどではないが背が高く、しかも間合が近いので、かつあげでもされやしないかと不安になる。

「今、生徒総会の準備で忙しいんだ。だから、あんたに生徒会を手伝ってほしいんだけど」
「はあ?」
「生徒会補佐にしてやるよ。そうしたら誰も文句は言わないし」
「ちょっと、待ってくださいよ! なんでおれなんですか?」

 わざわざそんなことしなくても、手伝いなんてクラス委員でも誰でも進んでやるだろう。
 こういうときのために生徒会べたぼれのメンツで委員会が構成されているというのに。

「だって戸上は部活も委員会も入ってないからひまだろ?」
「おれクイズ研究会です」
「そんなの活動してないだろ」
「そんなことありません。おれクイズ大好きです」
「はいはい、文句ならあとで聞いてやるから。とりあえず明日の放課後生徒会室に来い。
これ会長命令だから。すっぽかしたら使いをやるぞ」

 倉掛は言うだけ言うと、大きく手を振りながら歩き去った。
 終始軟派な笑顔を振りまいていたが、おれはにこりともしなかった。
 どうしてこうなるんだ。


   ◇



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