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ブルー・デュール
桜 常 編

89

 五時間目、眠気と戦うことが義務づけられている世界史の時間だが、今回は緊張でそれどころではない。
 最後のテスト返却だ。

 先生に呼ばれて答案を受け取るとすぐ二つ折りにし、席に戻ってから少しずつ開いた。
 丸よりバツのほうがダントツで多い。だが。

「よ、かったあああ」

 おれは安堵のため息をついて机に突っ伏した。
 慶多が振り返っておれの手から答案をひったくった。

「おお、赤点免れたか」
「これで補習はなしだ!」
「よーしよし、よくがんばったな」

 おれは顔をあげて、慶多と喜びを分かち合った。
 全員に返却し終えた先生が、クラスの平均点を発表している。
 おれたちはいつでも下げる側だが、そんなことはどうでもいい。

 おれと慶多の低レベルな会話に、周囲は生ぬるい視線を寄こしてくるが、そんなこともどうでもいい。

「明日はついに終業式だぜ」
「そしたら夏休みだな!」

 高校初めての夏休みだ。
 やりたいことはたくさんある。
 どんな遊びから始めるか、考えるだけでわくわくする。

 おれたちは先生の解説そっちのけで、夏休みをどう過ごすか論議を交わした。
 最後の授業なので、先生はおれたちのはしゃぎっぷりも大目に見てくれているようだ。

 はしゃぎ過ぎて体がほてってきた。

「……りゅう? お前なんか変じゃね?」

 慶多に指摘されるまで、おれは自分の体の異常に気づかなかった。

「顔赤いし、目潤んでる。熱でもあるんじゃないのか?」
「ええー? そんなことないってー」

 へらへら笑うおれの言い分を無視して、慶多はおれの額に手を当てた。

「おい、これ絶対熱あるって!」
「え、ほんとに? 風邪なんて滅多に引かないんだけどなあ」
「普段使わない頭使ったからだろ。俺に移す前にとっとと保健室行って来い」

 期末試験は中間試験よりずっと頑張ったからな。
 少し頑張りが過ぎたのかもしれない。

 六時間目は大掃除で、ちょうど面倒くさいと思っていたところだ。
 熱があるなら堂々とさぼれる。
 優雅に昼寝でもするか。


   ◇



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