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ブルー・デュール
桜 常 編

83

 鳴瀬と倉掛は、おれと同じ施設にいたそうだ。
 だがふたりが来たのはおれが友崇に連れ出されたあとだったから、会ったことはない。
 おれが奪われてから厳重に情報が管理されるようになったので、
施設の動向をつぶさに監視していた真岸家でさえふたりの存在は知らなかった。
 おれが手元にいる以上、深入りはしない方針を立てていたのかもしれない。

 本條家は電化製品を扱う会社を経営するいっぱしのセレブで、情報技術にも力を入れている。
 ハッカーも多く出入りし、双子もそういう環境でパソコンに詳しくなったらしい。
 そして双子が兄のように慕っていた若い情報屋が、
施設に再びピース回収のできる子供が現れたという情報を入手した。

 双子はその情報屋のもとで計画を練り、鳴瀬と倉掛をうまく懐柔して施設の外へおびきだした。
 まだ小学生だった新と湊が具体的にどんなことをしたのか、詳しいことは教えてくれなかったが、
とにかく恐ろしい双子だ。

 鳴瀬と倉掛はおれと同じように本條家にかくまわれ、
人目のつかないところということで桜常中学に入れられた。
 その翌年、双子も追ってここに入学した。

 去年、おれが初めてピースを回収したころ、同じように施設の情報を盗んでいた双子も
鳴瀬と倉掛をピース回収に連れ出し始めた。
 そのときはもうおれのことを知っていて、どこの中学に通っていてどんな生活をしているか
詳細に把握していた。
 友崇は桜常勤務だったので行動を見張るのはたやすく、
おれたちの目をかいくぐって先にピースを回収してまわっていた。
 ここに来る前は行ってもスカだったことが多かったのは、
情報が間違っていたのではなくすでに取られていたからだったのだ。

 話を聞けば聞くほど、おれと友崇の関係に酷似していることがわかった。

「ならさっさとそう言えよ!」

 おれは鳴瀬の胸をどついた。

「お前だって施設から逃げてる身なんじゃねえか! だったら正体を知られたところで、
弱みを握られたことにはならないじゃねえかよ! だましやがってこのやろっ」

 施設のまわし者だと警戒し、必死に正体を隠していたのが馬鹿みたいだ。
 鳴瀬の好きにさせないでも、弱みを握っているのはお互い様だったのだ。
 これではただのやられ損だ。

「一発殴らせろ!」

 鳴瀬に飛びかかったが、軽々かわされて鼻で笑われた。
 この不遜な男の鼻っ柱をいつか折ってやりたい。

 倉掛はあきれた表情でおれたちのやり取りを見ていた。

「お前はりゅうを一人占めしたかっただけだろ」

 鳴瀬はなにも言わなかった。
 おれは鳴瀬に殴りかかるのをあきらめ、一歩下がって生徒会の四人に指を突きつけた。

「よくわかったよ。これからはお互い不利益になることはやめようぜ。
でも、ピースはおれが集めるからな!」

 言った途端に鳴瀬と倉掛の目が暗く光った。
 なぜかはわからないが、ピースを回収できる者はピースに魅かれる性質がある。
 おれもそうだ。
 すべてを明らかにしたいという気持ちもあるが、それ以前にとにかくピースを手に入れたいという
本能のような欲求がある。
 食事で腹が満たされるように、ガラスの球体のようなピースを手にすると、
おれはひどく満たされるのだ。

「ま、これからはこれからってことだね」

 新が答えになっているのかよくわからないことを言った。
 おれは四人を一瞥し、ひとり先に寮へ戻ることにした。

「ちょっと待って、りゅう君!」

 湊が小走りに追ってきた。

「なんですか?」
「ひとつ言い忘れてた」

 湊は口元に手を当て、おれの耳元で囁いた。

「転入生に気をつけて」

 木田川皇明のことか。

「なんで?」
「わからない。わからないから、警戒しておく必要があるんだよ」
「はあ」

 馬鹿なおれは真意を汲み取ることはできなかったが、一応生返事を返しておいた。



 八章

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