ブルー・デュール
桜 常 編
82
おれは鳴瀬と倉掛と一緒に、誰もいなくなった学校の小路を歩いた。
さっきまでの騒がしさが嘘のように静かで、森のざわめきしか聞こえない。
天気のいい穏やかな夏の日だ。
昇降口前には小さな噴水があるが、今日は休日なので水は出ていない。
その丸い縁に生徒がふたり、背中あわせに座っていた。
右の生徒が歩いてくるおれたちに気がつき、左の生徒の背中を肘で小突いた。
ふたりはおれたちに向き直って座った。
「やあみなさん」
湊が芝居がかった口調で言った。
「遅かったねー」
新が手を振りながら言った。
「待ってたよ」
「東(あずま)りゅう君」
心臓がどくんと大きく鳴った。
地面に足がくっついて動かなくなった。
「今……なんて言った?」
声が震えるのをなんとか押さえながら言った。
双子は顔を見合わせ、悪戯っ子のような笑顔になった。
「東りゅう君」
「君の名前だろ?」
鳴瀬と倉掛は不思議そうにおれを見る。
「東?」
たずねられても答えられる状態ではない。
今の名前は友崇に助けられてから名乗り始めたものだ。
本当の名は、東りゅう。
これは施設の人間しか知らないはずだ。
「なんで知って……」
「なんでって」
新は跳びはねるように噴水の縁から降り、おれの前に来た。
「施設のデータベースにあったから。ああそんな顔しないで、僕たちあそこの人間じゃないから。な」
続いてやってきた湊は、安心させるように笑った。
「そう。ただ僕たちはハッキングが得意なだけだよ」
「そうやってピースの情報を探して、凌士と青波を助けてきたんだ。もう話は聞いてる?」
新が上級生の鳴瀬と倉掛を呼び捨てにしている。
なにがなんだかわからない。
「今こいつの話を聞いたところだ。お前らから情報をもらってるってことは前話したけど、
俺と青波の話はしてねえよ」
鳴瀬が言うと、新は口端をつり上げた。
「そっか。ずいぶん時間かかったな。いつ気づくのかずっと楽しみにしてたのに」
「は? おい、まさかお前ら知ってたのか? 戸上が回収の邪魔してる奴だってこと」
新と湊は同時に頷いた。
「りゅう君のことは、りゅう君が桜常に来る前から知ってたよ。
まさかここに来るとは思ってなかったからかなりびっくりしたけど」
「早く気づいてくれるように、わざわざ回収の日時も一緒にしてあげてただろ。
気づくの遅すぎだよ君たち。遅すぎ」
なんだか頭が痛くなってきた。
鳴瀬と倉掛も同じ気持ちだろう。
この双子、なにも知らない風を装って、おれたちを遊び半分に観察していたのか。
「おい……説明してくれないか」
おれはこめかみを押さえて呻るように言った。
新と湊は花開くような笑顔になった。
この邪気のない笑顔の下でずっと、おれたちを躍らせていたのか。
「いいよ、教えてあげる」
湊が言った。
◇
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