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ブルー・デュール
桜 常 編

76

 鳴瀬はおれを抱えて寮に帰った。
 おれの顔は涙でぐしゃぐしゃだったので、鳴瀬の腕に押しつけるようにして顔を隠していた。
 帰宅部はとっくに帰っているし、部活が終わるには早い時間だったので、
人の気配はあまり感じられなかった。

 部屋に入ると鳴瀬はまっすぐバスルームに向かった。
 ズボンに手をかけられ、大げさにびくついたおれの頭に鳴瀬は手を乗せた。

「洗っとかないとあとで嫌な思いするぞ」

 中に出されたままだったので確かに気持ちが悪い。
 おれは鳴瀬に任せることにした。

 鳴瀬はおれを生まれたままの格好にすると、自分は制服のシャツとズボンをまくりあげただけで
シャワーコックをひねった。
 温かく柔らかい飛沫がかけられ、バスルームは湯気に包まれた。
 鳴瀬は制服が濡れるのも構わず、おれの体に丹念に湯をかけた。

 湯を止めると、臀部に鳴瀬の指が当たるのを感じて身をすくめた。
 なだめすかすように背中を叩かれたが、行為を思い出して体が震えてくる。
 秘部に触られると何本もの針で一気に刺されたような痛みが走った。

「いっ……」
「ちょっと我慢しろ」

 お湯と一緒に鳴瀬の指が中に入りこんできた。
 痛みをこらえるために口を強く結んだ。
 なるだけ刺激しないようにしているようだが、痛いものは痛い。
 出されたものを全部かきだすと指は出て行き、再びシャワーをかけられた。
 なんだかとても心地良い。
 シャワーを見るとおれの部屋のものとは違う大きなヘッドがついていた。

「あれ? おれの部屋じゃない?」
「ここは俺の部屋だ」
「え? なんで」

 鳴瀬は問いに答えず、シャワーを流し続ける。
 湯量を多くしても水が柔らかい。
 備えつけのシャワーヘッドを自分で買ったものと交換したらしい。

 洗い終えるとバスタオルで包まれ、全身くまなくこすられた。
 自分でやろうとしても聞き入れられなかった。
 犬にでもなった気分だ。

 体が乾くと鳴瀬のシャツとハーフパンツを着せられてバスルームを出た。
 二段ベッドではなく普通のシングルベッドが置かれ、三年は一人部屋なのでおれの部屋より少し狭い。
 綺麗に整頓されていて物が少なく、インテリアグッズは黒で統一されている。
 一枚のガラスでできたコの字型ローテーブルの下には、見慣れた黒いクッションがあった。

 鳴瀬はおれをベッドに寝かせ、サテン生地の黒いケットをかけた。

 窓は全開になっていて、湿気を含んだ生温かい風が吹きこんできた。
 窓の向かいは学校を囲む深い森だ。
 鮮やかな緑の葉をたっぷりつけた針葉樹が静かに揺れている。

 天井を見ると、いつかデパートで見たスポットライトが下がっていた。
 四つついたライトはてんでんの方向を向いていて、部屋中を照らし出せるようになっている。
 やっぱり買ったんだな。
 インテリアに凝っているようだが、もしや生徒会の経費で落としているのだろうか。

 おれはケットを肩までかけて丸くなった。
 低反発枕が眠りを誘う。

 うつらうつらし始めると、枕元でおれの顔を覗きこんでいた鳴瀬が立ち上がった。
 おれに背を向けて歩いていってしまう。

「どこ行くんだよ」

 考えるより先に声をかけていた。

「すぐ戻るから」

 振り返りざまに鳴瀬は言った。
 そんなところにいられたら、手を伸ばしても届かないじゃないか。

「あとにしろよ」

 そう言うと、鳴瀬は困ったように足踏みしたが、引き返してきてまた枕元にしゃがんだ。

「わかったよ……」

 おれは黙って目を閉じた。
 寝つくまでいてくれれば、それでいいから。


   ◇



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