[携帯モード] [URL送信]

ブルー・デュール
桜 常 編

40

 不景気で廃園に追いこまれた小さな遊園地。
 チケット売り場は落書きだらけのシャッターが降り、固く閉ざされた入り口には
立ち入り禁止のロープが張ってある。
 かつては子供連れでにぎわっただろう園内では、どこかから飛んできたコンビニ袋や空き缶が
寂しく風に吹かれている。
 そんなさびれた過去の遺物の中に、ピースがまぎれこんでいるらしい。

 いつもいつも、友崇はよく探し出してくる。
 権力の塊である真岸家に頼めば欲しいものはなんでも用意してもらえるのだろうが、
それにしても情報収集能力が高すぎる。
 おれに隠れてなにか犯罪めいたことに手を出しているとしか思えない。
 おれはビニールをかぶったアトラクションのあいだを駆けながら、そんなことを思った。
 助かっているから文句を言うつもりはないが。

 おれは一枚の地図を片手に、ビビッドカラーの幅広い建物に入った。
 巨大迷路に入るのは生まれて初めての経験だ。
 中は真っ暗で、懐中電灯をつけると四方八方から明かりが反射して思わず目を閉じた。
 ここは全面鏡張りの迷路だということを忘れていた。

 友崇のくれた地図があって助かった。
 どちらに道があるのかもわからないこの迷路に地図なしで入ったら、まず迷っていた。
 朝がくるまで出られなかったかもしれない。

 友崇は性格に問題がないといえば嘘になるが、頼りになることはなる。
 少し心配症だがそれもおれのことを思ってのことだ。
 図書館に鳴瀬といたことでずいぶん問い詰められたが、
完全にばれているわけではないので大丈夫だと言っておいた。
 それよりおれは鳴瀬と倉掛が施設の人間なのではないかと危惧していた。
 ピースを回収できるのだから、無関係というわけではないだろう。
 なんにせよ、鳴瀬たちがピースを集めている以上、おれたちにとって邪魔な存在だ。

 心配ばかりしていたら、地図を見るのを忘れていた。

「あれ、ここどこだ」

 辺りを懐中電灯で照らしたが、黒いマスクとパーカー姿のおれが鏡に映るだけだ。
 地図を照らしてみると、入り口から出口までのルートが赤ペンでわかりやすく示されている。
 だが現在位置がわからなければ意味がない。

「ここまで来たから……こう来て、ここか? いやでも……」

 地図をぐるぐるまわして見てもわからない。
 こうなったらピースの声を頼りに行くしかない。
 ピースの声は迷路に入ってからかすかに聞こえている。
 建物のどこかにあるのは確かだ。

 ピースの声はしているものの、行きたい方向に行けないのでなかなか近づけなかった。
 せっかくのおれの感知能力も、こんな場所では本領を発揮できない。
 いったん外に出ようとしても出口がわからない。
 泣きたくなってきた。

 おれがしょんぼりしていると、遠くで足音が聞こえた。
 反射した懐中電灯らしき光が一筋、視界をかすめた。
 このタイミングで侵入者なんて、心当たりはひとつしかない。

 鳴瀬たちがやってきた。


   ◇




*<|>#

4/9ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!