ブルー・デュール
桜 常 編
38
ピースの正体はおれも友崇も知らない。
おれは友崇に言われた通り、ピースを集めて復元しようとしているだけだ。
それがおれの過去を知る手がかりになると信じて。
ピースを集めたらなにが起こるのかは、わからない。
それは危険な賭けだった。
施設の連中があんなに躍起になるくらいだから、きっと科学の範疇を越えるような
なにかが起きるのだろう。
ようやく手に入れたこの生活も狂ってしまうかもしれない。
だがおれはそれでも、自分がどうしてピースの声を聞けるのか知りたかった。
おれはどこで生まれてどうして施設に身を置くようになったのか、
知らないままでは仮初の人生しか歩めない。
全部を受け止めて初めておれは、本当の自分になれる。
◇
翌日の昼休み、おれが慶多や峻と購買に行くと、一画がいやにざわついていた。
好奇心から近寄ってみて、すぐ後悔した。
鳴瀬と倉掛が取り巻きに囲まれていた。
今日は珍しく鳴瀬よりも倉掛のほうが騒がれている。
その理由は一目瞭然だ。
不機嫌そうな倉掛の下顎には、大きな湿布が貼られている。
肌色の薄い湿布だが場所が場所だけに目立つ。
「おいおい、今度は青波さんが怪我したのかよ」
隣で慶多が腕組みをして言った。
どうやらあざになってしまったようだが、元はといえば邪魔をしてきた倉掛が悪い。
そもそもピースが割れたのだって、奴が足かけなんてしてきたせいだ。
口ぐちに労わりの言葉をかける生徒たちに混じり、慶多は倉掛と話しに行った。
おれは峻とそれを遠巻きに見ていた。
倉掛は慶多と言葉を交わしていたが、不意に慶多がこちらを向いておれを指差した。
あそこにいますよ、と口が動いたように見えた。
倉掛はまっすぐおれのもとに来て、いつも通りの笑みを浮かべた。
またしても生徒たちの視線が痛い。
「りゅう、俺先行って並んどいてやるよ。唐揚げ弁当でいいんだよな」
峻は早口に言うと人ごみに紛れてしまった。
薄情者め。
おれは心の中で峻を呪いながら、倉掛に軽く会釈した。
「どうも、倉掛先輩」
「や。見てくれよこれ。ひどいだろー?」
「……そうですね」
「なんだよ、どうして怪我したのか聞いてくんないの?」
なんと言えばいいんだこれは。
おれは倉掛の顔を直視できなくて視線をさまよわせた。
すると鳴瀬がこちらを見据えていることに気がついた。
鳴瀬の視線の先を察した取り巻きは、刺すような目でおれを睨んでいる。
ふたりを同時にたぶらかすなんて信じられない、なんて言葉が聞こえてきた。
その発想が信じられない。
「なあ、りゅう?」
黙っていると倉掛はなおも食い下がってくる。
張りつけたような笑顔で、目の奥が笑っていない。
おれは適当に言い訳をして、その場を離れた。
倉掛の本性を垣間見た気がしてうすら寒くなった。
◇
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