ブルー・デュール
桜 常 編
26
おれは豪邸の薄暗い一室に閉じこめられた。
窓には刺繍入りのカーテンが引かれ、ふかふかの絨毯が敷かれてクラシック調の家具で統一されている。
部屋の中央にはキングサイズのばかでかいベッドが据えてある。
その脇にバスローブ姿の肉づきのいいおっさんがいて、やにさがった笑みを浮かべていた。
「ん、初めて見る顔だね」
「メイリと申します……」
おれは裏声を使って囁くように言った。
この部屋に充満するきつい匂いはなんだ。
香を焚きすぎではないのか。
「メイリか。よしよし、緊張しなくていいぞ。私のことは智親さんと呼びなさい」
友崇と一文字違いとは、余計に嫌な気分だ。
「と、智親さん……?」
「そうそう。さあもっとこちらへ来なさい」
おれは半歩踏み出してから一瞬ためらったが、素直に智親のそばに行った。
友崇の言葉が頭の片隅をよぎったが、奴の趣味に合わせてやるほど余裕はない。
智親はおれの手をとって、かさついた指で手の甲をなでた。
「いい子だ」
おれは靴を脱がされ、広いベッドに寝かされた。
智親はおれの脇に腰かけて、ドレスから覗く足を膝から内股に沿ってなで上げた。
くすぐったさとおぞましさで智親の手をはたきたくなったが、じっと我慢した。
「今日は初めてだからね、私が脱がせてあげよう」
智親はドレスの肩ひもに手をかけた。
おれは思わずその手を押さえていた。
胸のふくらみを隠すフリルの中には、眠り薬をしこんだハンカチが詰めてある。
隙を見てこれで眠らせようと思っていたのに、このおっさんがっつきすぎだ。
「ちょ、ちょっと待ってください。あの……」
「ん、なにか気になることでも?」
「いや、その……」
「恥ずかしがるのもいいが、今は時間があるからね。私に任せなさい」
さっそく雲行きが怪しい。
やはりこの作戦は最初から無理があったんだ。
「あれ? 君は男の子かい?」
あっさりばれてしまった。
智親の手はドレスを胸元まで引き下ろしたところで止まっている。
胸が小さいにしてもほどがあるだろう。
「あああのっ、これはっ」
「おかしいな、今日は女性を頼んだはずだったのだが」
「へ?」
今日は、ということは男を頼むこともあるのか。
「なにか手違いがあったのかな。まあいいか」
「いいのかよ!」
「あれ、急に元気になったね。無理しておとなしくしていることはないんだよ。
私に気に入られればチップも弾むから、がんばって奉仕しなさい」
なんだか気が遠くなってきた。
智親はドレスを脱がす手を再開させ、腹のあたりまでずり下げられた。
ハンカチを取ろうにも智親に服を握られていてできない。
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