ブルー・デュール
桜 常 編
24
「なあ、りゅうってば」
「なんだよ」
「だからー、会長となにがあったんだって聞いてんだろ」
「なにもねえよ」
「そんなわけねーだろ」
慶多は飽きることなくおれに同じ質問をぶつけてくる。
そのたびにおれはしらを切った。
頬をなめられた上にディープキスされましたなんて言えるか。
「じゃあなんで戻ってきた会長は唇の端切ってて頬腫らしてたんですか。誰かが殴ったってもろばれなんですけど。
そしてなんでお前は俺を置いてひとりで帰ったんですか」
「うるさい。でかい声で言うな」
おれは机に頬杖をついて慶多を睨んだ。
だが慶多は怯むことなく、逆にしてやったりと笑った。
「やっぱりお前が殴ったんじゃん。あいつらにばれたら大変だぞ? 会長の麗しいお顔にお怪我が!
って大騒ぎしてるじゃねーか」
おれは横目でうちのクラス委員久河とほかふたりを見やった。
週があけて、鳴瀬が口端に傷を作ったまま登校するやいなや、学校中を噂が駆け巡った。
そんな小さい傷くらいで大げさなとあきれたが、クラス委員を筆頭に信者たちには大問題らしかった。
誰それが怪我をさせたらしいだとか、痴情のもつれが原因なのだとか、流言飛語が飛び交っている。
ありがたいことに真実に近いものは今のところ見当たらない。
もっとも鳴瀬自身が喋らないかぎり、本当のことを知られる恐れはないのだが。
友崇が教室に入ってくると、好き勝手に騒いでいた奴らも静かに席に着いた。
相変わらずうさんくさい笑顔で生徒を手玉にとっていやがる。
「ホームルーム始めるぞー。今日から試験期間で部活はすべて中止だ。試験日程は前に貼ってあるから、
ちゃんと確認しておけよ」
いよいよ中間試験が迫ってきた。
高校に入って初めての試験だ。
おれは難しい入学試験を突破した外部生ってことになっているから、下手な点数はとれない。
部活がないので慶多と一緒に寮まで帰った。
慶多は宿題もろくにやってこないルーズな奴だから、試験は苦手だろうと思っていたが、
なぜか上機嫌だった。
どうしてかたずねると、意外な答えが返ってきた。
「試験は死にそうに怖ぇよ。だけど楽しみでもあるんだよな。青波さんの順位当てがあるから」
「なんだそれ」
この学校では、中間試験の上位五十名が掲示板に掲示される。
そこで倉掛が考えだしたのが、学年ごとのトップ予想なのだそうだ。
試験ごとに開催されていて、体育委員が窓口に使われている。
生徒たちには好評で、いつも試験前になるとその話題で盛り上がるらしい。
もちろん、教師に見つからないようにこっそりとだが。
「またあの副会長か……本当なにやってんだよ。そんなことに労力使うなら仕事しろって」
「今回は誰かなー。一年はお前みたいに外から来た奴がいるから大穴があると思うんだよな。
二年はどうせ新さんか湊さんだろうから賭けても高配当は見こめないし。優秀すぎるのもつまんねーよな」
「え、金賭けるのか?」
「当たり前じゃん。でなかったら面白くねーだろ」
賭博を黙認していていいのか。
むしろ慶多も体育委員だから加担している側か。
おれが快く思っていないことに気づいたのか、慶多は重々しく顔を寄せてきた。
「おい、気に入らなくても余計な真似するなよ? 青波さん敵にまわしたら賭けの対象にされちまうからな」
「なんだよ、どういう意味だよ」
「ここだけの話、順位当ては割と大っぴらだけど、常連限定の賭けゲームもたまにやってるんだ。
獲物を選んでそいつに罠を仕掛けて、どう対処するか影からモニターしたりしてな」
倉掛ならやりそうだから恐ろしい。
これからは倉掛の逆鱗に触れることはしないように気をつけよう。
◇
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