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ブルー・デュール
桜 常 編

22

 もうひとつ上の階に行き、鳴瀬は家具売り場を突っ切って照明のコーナーで立ち止まった。
 クラシック調から和風にモダンテイストまで、あらゆる照明がぶら下がっている。
 味気ない寮の部屋もこんな明かりがあればだいぶ雰囲気も変わるだろう。

 きょろきょろ上ばかり見ていたおれは鳴瀬にぶつかりそうになった。
 鳴瀬の前には内側が黒い箱があって、その中にスポットライトがいくつもついた照明が
ディスプレイされている。
 それぞれ色に微妙な違いがあっておしゃれだ。

「これかっこいいなあ。あ、でもどうやって使うんですか」
「これで」

 鳴瀬は箱の上に置かれていたリモコンを手に取った。
 押すたびにつくライトが変わる。
 なるほど、天井からひもがぶら下がっていたら雰囲気ぶちこわしだもんな。
 説明書きによるとライトの向きは好きに変えられ、常夜灯がついているので寝室にも最適だそうだ。

「いいなあこれ」
「買ってやろうか?」

 しゃがみこんで熱心に眺めていたおれに、鳴瀬が言った。

「いや、いいですよ」
「経費にしておけば金はかからないから、気にしなくていいぞ?」
「え、これも経費にできるんだ……でもなんか悪いじゃないですか」

 学校の金で自分のものを買うのはちょっと気が引ける。
 それに今の照明で別に不自由はしていない。

 鳴瀬は躊躇するおれを見下ろして、柔らかく笑った。
 子供のほほ笑ましい様子を見つめる親のような表情で、ベンチでぶすっとしていたときとは別人のようだ。
 普段からそうしていれば、少しはとっつきやすいだろうに。
 だがそうすると信者がわらわら詰めかけて大変なことになりそうだ。
 鳴瀬は威圧感ばらまいているくらいがちょうどいいのかもしれない。

「別に悪くないさ。お前にはいろいろ手伝ってもらったし、ご褒美とでも思えば」
「ご褒美って……おれ犬じゃないし、いいですよそんなの」
「なんだよ、意外と謙虚だな。ならなにが欲しいんだ」
「なにか買うの前提なんですか」

 欲しいものといえばこのあいだとられたピースだが、そんなこと言えるわけもない。
 それに生徒会を手伝ったのは事実だが、買い物ごときで借りを返すのも損に思える。
 借りは作っておきたい。

 しかし鳴瀬はなにか言わないと納得しなさそうな顔をしている。

「じゃあアイス」
「アイス?」
「だめですか」
「いや、別に。それくらいいくらでも買ってやる」

 鳴瀬はおかしそうに肩を震わせて、おれの頭に手を乗せた。
 さっきからどうも子供扱いされている気がする。
 非常に不本意だ。
 でも今欲しいものといえばアイスだった。


   ◇



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