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ブルー・デュール
桜 常 編

20

「青波さーんっ」

 慶多が明るく呼びかけると、倉掛はぱっと立ちあがって満面の笑みになった。

「おー慶多! りゅう! ふたりとも来てたのかー」
「偶然っすねー。仕事がひと段落して遊びに来たんすか?」
「そうそう。久々に羽を伸ばそうと思ってね」

 お前は仕事していなかっただろうが。
 鳴瀬もおれと同じ気持ちのようで、倉掛をじっとりと見上げている。

「もしかして青波さんもアレ見に来た?」
「七階のやつだろ? 世界のシルバーブランド展」
「やっぱりー」
「ちょうどいいし一緒に行くか」
「いいっすね」

 おれは慶多の後頭部を小突いた。
 うっかり力を入れすぎて殴ったようになってしまい、慶多は口をへの字に曲げた。

「なんだよりゅう、なに怒ってんだよ」
「いや、そうじゃなくて。お前が行きたかったのってシルバー展なのか?」
「そうだけど。すげえんだぞ、有名ブランドの掘り出し物が格安で売ってるんだ」

 シルバーアクセサリーは今、ちょっとしたトラウマになっているというのに。
 慶多はアクセサリーに凝っているので興味を持ってもおかしくないが。

「お前も来いよ、面白いぞー」
「あー……おれは、遠慮しとく。別のとこ見てるから」
「ええー」

 慶多は子供のようにむくれた。
 女の子たちはおれたちのやり取りにくすくす笑っている。

「なら俺につき合え」
「え?」

 鳴瀬がベンチから立ち上がりながら言った。
 持っていた鞄を肩に担ぎ、おれの肩を叩く。

「俺は青波とは別に用事があるから来たんだ。連れがあっちに行くならお前はこっちだ」
「ええ?」
「そうだな、そうするかー」

 倉掛はのほほんとうなずいて慶多の肩に腕をまわした。
 どうするべきか思い悩んでいると、鳴瀬に話しかけていた女の子二人組が目をキラキラさせておれを見た。
 鳴瀬よりおれのほうが与し易しと踏んだのだろう。

「私たちもついてっていい?」
「いやいや、お邪魔しちゃだめだよー。俺たちと行こうよ、ね」

 ぜひ来てくれ、と言う前に倉掛に先を越された。
 お邪魔の意味がわからない。
 だめ副会長め、本当にろくなことをしない。
 女の子たちは少し残念そうにしていたが、倉掛に笑顔で手招きされると素直についていった。

「行くぞ」

 鳴瀬に腕を引っぱられ、おれは助けを求めて慶多を振り返った。
 女の子に囲まれ上機嫌の慶多は親指を立ててみせた。

 グッドラックじゃねえよ。


   ◇



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あきゅろす。
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