ブルー・デュール
桜 常 編
17
車に逃げ戻ると、おれは友崇にすぐここを離れるよう言った。
友崇は黙って車を走らせ、田舎のコンビニの広い駐車場に入った。
エンジンを切り、窓を開けて煙草に火をつけるとルームミラーごしにおれを見る。
「どうした? とってこなかったのか」
「……邪魔が入った」
「また、あのときの男か?」
「今度はふたりいた。しかも、うちの学校の生徒会長と副会長だった」
「はあっ?」
友崇は振り向きざまに煙草を落としてしまい、慌てて拾ったがくわえようとはしなかった。
「鳴瀬と倉掛か!? まさか」
「本当だ、ちゃんとこの目で見た。シルバー専門店で邪魔してきたのは鳴瀬だったんだ。
あのときはあいつも仮面つけてたからわからなかったけど、今日は普通の格好してた。
それで倉掛がピースを回収して、なにがなんだかよくわからなかったからとりあえず逃げてきた」
おれはフードを外し、マスクをとって髪の毛をかきあげた。
今日はとんだ失態だった。
また邪魔されることも十分考えられたはずだったのに、たかをくくっていた。
「お前以外にも回収できる奴がいるとはな……」
「あいつら何者なんだ? どうしてピースを集めてるんだろう」
「わからないうちは余計な推測はやめたほうがいい。とにかくじゅうぶん注意しろ。
正体はばれてないだろうな」
「大丈夫だと思う。一言も喋らなかったし」
走ってきたせいか体が熱く、おれは襟を持ち上げて服の中に風を送った。
「でも……」
しかし、このタイミングで生徒会補佐に任命されるのはできすぎている。
会長はおれのことを疑っているのだろう。
うっかり昼休みにあいつにぶつかったりしなければ、こんなことにはならなかったのに。
両目を隠されたのは仮面をつけていた姿と比べるためだったのか。
「りゅう?」
友崇が心配そうな声を出した。
おかしい、息切れがなかなか治らない。
この胸を締めつけられるような感覚は、走ってきたせいではない。
「は、あっ……、くそ」
「おい!」
おれはシートにもたれかかったままずるずると倒れこんだ。
胸が苦しい。
うまく息ができない。
友崇は慌てて運転席を出て後部座席のドアを開け、背中を丸めて服を握りしめているおれを
仰向けに転がした。
手には青く輝く宝石のような丸薬を持っている。
友崇はおれの口を開けてそれを喉の奥に押しこんだ。
おれはむせそうになったがなんとか口を閉じ、大きい飴玉ほどもあるそれをひと飲みにした。
食道を丸薬が降りていくのが感じられる。
おれは目を閉じた。
おれの汗ばんだ頬に友崇の手が添えられているのを感じて安心する。
しばらくすると息苦しさは収まり、目を開けると友崇と視線が交差した。
「おい、りゅう、大丈夫か? 最後に薬飲んだのはいつだ?」
「ええと……一週間くらい前かな」
「馬鹿かお前! ちゃんと定期的に飲まないとだめだって何回言えばわかるんだよ!
授業中にこうなっても知らないぞ!」
「ごめん……」
言い返す言葉もなかった。
友崇は本気で怒っているようだ。
だがおれが素直に謝ったので、ため息をつくと頭をなでてきた。
「自分の管理くらい自分でしろよな」
口調とは裏腹に、友崇の手つきはとても優しかった。
◇
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