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ブルー・デュール
桜 常 編

121

「やりすぎだ! このど阿呆!」

 鳴瀬の部屋に連行されたおれは、鳴瀬に黒いクッションを投げつけた。
 鳴瀬は左腕をあげてクッションを受け止め、スーツの上着を脱いで勉強机の椅子の背にかけた。

「別にいいだろ。はっきりさせといたほうが変な虫が寄ってこなくなるし」
「おれの意思は無視かこの野郎」

 明日登校するのが恐ろしい。
 一体どんな目で見られることになるのやら。

「おれは普通に生活したいのにっ」
「心配すんな。問題が起こったら俺がなんとかしてやるから」
「そんなこと言われてもなあ……」

 ぶつぶつと小言を呟いていると、腰に手をまわされて持ち上げられ、ベッドに放り投げられた。

「ぎゃっ」
「嬉しいなら素直に嬉しいって言えよな」

 鳴瀬がのしかかってきた。
 半眼で睨みつけてやると、なぜか顔をほころばせて抱きつかれた。
 首筋に顔をうずめられ、髪の毛が当たってくすぐったい。

「ちょっ……」

 音を立てて首にキスされ、シャツに手をかけられた。

「まっ待って、おれ今日汗かいたから、せめて風呂に入らせてくれっ」
「いい。お前の汗の匂いも好きだ」

 半ば変態くさいことを言いながら、鳴瀬は顔をあげて不敵に笑った。

 相変わらず強引で傲慢な男だ。

 一方的に脱がされていては今までと変わらない。
 鳴瀬のとまどうところが見たくて、おれも鳴瀬のシャツのボタンに手をかけた。
 でも鳴瀬は余裕の笑みを崩さなかった。
 ほんの少しだけ、目の色が変わった気がするが。

 おれたちは明るい中で脱がし合った。
 案の定、おれの頭についた耳つきカチューシャだけは外されなかった。

「あんまり見るなよ……」

 鳴瀬はおれの頭の両脇に手をつき、下着一枚になったおれをまじまじと見つめている。

「照れてんのか? かわいいな」
「うるさい」
「猫耳つけて接客するなんて、お前どうかしてるぞ」
「どうせ似合ってねえよ。無理やりつけられたんだからしょうがねえだろ」
「似合ってるからだめなんだって。高校生なんか性欲の塊なんだから、とち狂った奴に襲われたらどうするんだよ」

 鳴瀬が猫耳にかみついてきた。
 今まさに襲っている張本人に言われたくない。

「お前がそばにいないと心配でしょうがない。どっかで変な奴に言い寄られてないかとか、
押し倒されてないかとか、そんなことばっかり考えちまう」

 あれ、なんだか、それって。

「お前は馬鹿な上に隙だらけだからな。すぐふらふらして、見張ってないとめちゃくちゃ危なっかしい。
俺をこんなに振りまわせるのは、お前くらいなもんだよ」

 鳴瀬もおれと似たようなことを考えていたのか。
 近くにいないだけで不安になって、自分以外の誰かとどうにかなっているんじゃないかと気を揉んで。

 ほかの誰かにこんなことを思われたらうっとおしいだけだが、鳴瀬にそう思われているのなら、
おれはそれだけで生きていける。



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